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NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/NPO法人多文化共生子ども・若者プラットフォーム理事長。 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援を担当。7歳と3歳の2児を育てるフルタイムワーキングマザー。

日本語ができないとどうなる?(3)-日本で生まれ育った子ども

外国にルーツを持つ子ども・若者

2015年08月05日

 

 

 

前回、前々回とそれぞれ幼少期に来日した子どものケース、10代で来日した子どものケースを見てきました。

 

 

ikitanaka.hatenablog.com

 

 

ikitanaka.hatenablog.com

 

 

今回は、最近特に増えていると感じている日本で生まれ育った子どもについてお届けします。

 

 

『え?日本で生まれ育ったんだったら日本語は問題ないんじゃないの』

 

という声が聞こえてきそうですが、それがそうでもないのだということを、私自身、この仕事を始めるまでは気づきませんでした(おはずかしながら、考えたこともなかったくらいです・・・)

 

今回は特に、日本で生まれ育った子どもの中で、おもに幼少期からひとり親家庭で育った子どものことを中心にお伝えしてゆきます。実は、場合によってはもっともリスクの高い環境になる、と私が考えている状況です。

 

例によって、現場で出会ってきたいくつかのケースをもとに物語として再構成してゆきます。いずれも、幼少期にご両親が離婚し、外国人の親御さん(父または母)が1人で子育てをしてきたケースです。

 


<生後~離婚まで>
 

実両親のどちらか(おもに父親)に日本人が含まれる場合、生まれた直後から家庭内の言語が日本語となっている場合があります。これは日本人の父がそのように外国人妻に強制していたり、日本語ができなくなるとかわいそうだから、という子どもを思っての選択である場合があります。

 

このため、新たに母親あるいは父親となった外国人の親御さんも、赤ちゃんに日本語で語りかけるように。お子さん自身も、周囲からの語りかけや保育園での交流などによって日本語を獲得しながら成長します。

 

 

<離婚後>

 

日本人との間に生まれた、いわゆる「ハーフ」のお子さんを育てる外国人の親御さんの間によくみられるのは、『この子は日本人だから、日本人としてちゃんと育てたい』とわが子の将来を強く案じる気持ちです。(外国籍のお子さんを持つ親御さんでも、同じように日本に暮らすのだから、日本語で子育てしなければ、と考える方がおられます)  

 

このため、離婚しひとり親家庭となった後も、日本語での子育てを続ける傾向にあります。

 

 

<保育園/幼稚園時代>

 

子どもの日本語は、ほぼ問題なく伸びているように見えます。
この時期の外国人の親御さんには、「子どもの話している日本語が100%はわからない」「子育てに必要な日本語の力が不足している」という状況が訪れるようになります。

 

・子どもが保育園などで習い歌ってくれる歌の歌詞が難しい(”おこしにつけたきびだんご”など)。
・子どもが読んで、とせがむ絵本が読めない
・園で出される「お便り」が読めずに、”忘れ物”や意図しないイベントへの「欠席」が発生してしまう。
・子どもが悪いことをした時も、「ダメ」とは言えるけれど、それがなぜダメなのかを伝えることができない。

 

時折、母語で話しかけてみますがすでに子どもは「わからないからやめてー」と日本語での会話を望むようになっていました。

 

 

<小学校入学後>

 

学校から出される宿題を見てあげることができません。相変わらずお便りが読めないので、何が必要なのかわかりません。

 

学校の先生からは「落ち着きがない」「クラスメートに手を出してしまう」など、わが子についてのトラブルの報告が続きます。

 

日本語は上手だと思っていたわが子が、実は小学校の勉強が理解できていないことがわかってきました。先生からは「もっと家でも日本語でお子さんと会話するようにしてください」と言われます。

 

なんで勉強できないの?
もっと勉強しなさい

 

自分で子どもの勉強を見てあげることができないもどかしさと、親としての思いを正確に伝えられない苦しさ、子どもの話している日本語をすべては理解できないくやしさなどが、家計のため昼夜働く外国人の親御さんに襲い掛かります。


子ども達自身も、他の家庭との比較から自らの家庭が「他とは違う」ことに気付きはじめます。また、お母さん、またはお父さんの日本語が上手ではなく、自分が話す内容がうまく通じていないことも理解し始め、「どうせ話しても仕方ないから」とコミュニケーションを避けるようになる場合も。

 

 

<中学校入学後>

 

働きづめで顔を合わせることすら難しい親御さんと、日本語しか話せないお子さんの親子の溝はどんどん深まります。思春期に入り、お子さんはアイデンティティの悩みも抱えるようになり一層、距離が開いていってしまいます。

 

お子さんの成績は、小学生のころからずっと最下位に近い状況です。
中学に入ってからは特に勉強がわからなくなり、日本人ネイティブの家庭に生まれ育った子どもたちが理解している漢字の半分も書けなかったり、簡単な算数の計算もつかえたり。

 

日本語があんなに上手なのにどうして?
・・・外国人の親御さんには、お子さんの日本語の正確な力をはかることは困難です。

 

入学後、最初の試験が終わるころには学校の先生から「特別支援学級」へ通ってみないかと言われました。クラスの授業に、まったくついていけておらず、テストも10点も取れない教科がほとんどでした。

 

 

<その後>

 

そのまま中学3年間、一般のクラスと特別支援学級を行ったり来たりしながら過ごしました。進路を決めるときに、学校の先生には普通高校は難しいのではといわれましたが、なんとか高校には通ってもらいたいと定時制高校を受けて入学しました。

 

定時制高校では先生にめぐまれ、ゆっくりと本人のペースで学習を進めることができました。しかし、ちょっとしたことで怒り、友人や親へ暴力をふるってしまうといったトラブルが続き、結局は退学することに。

 

もう親御さんが話しかけても、何か日本語で怒ったようにまくしたてて暴れるか、その場からいなくなり何日も帰ってこないなど、親子としての関係は一層悪化しています。働くこともせず、学校に戻ることもなく・・・この先、どうしたらよいか親御さんとしても強く悩んでいます。

 

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生まれてからもっとも関係の深い親御さんが、もっともよく運用できる言葉で子育てしなかったケース、つまりこの場合は外国人保護者が日本語のみで子育てしたケースで、さらに家庭内に日本語ネイティブが含まれないひとり親家庭で育ってきたことが、外国にルーツを持つ子どもの「シングルリミテッド」と呼んでいる状態を引き起こしたと考えています。

 

「シングルリミテッド」とは同様のケースが複数続いた際に便宜的に田中が名付けた造語で、母語も日本語も十分でない(しかし、ある程度運用はできる)状態が一般的に「ダブルリミテッド」と呼ばれているのに対し、日本語(=非母語)しかできないが、その日本語自体の力が限定的である状況を表しています。


「シングルリミテッド」がみられた外国にルーツを持つお子さんの共通点は、「外国人ひとり親」であり「日本語での子育て」環境でした。こうしたシングルリミテッドの外国にルーツを持つお子さんのほとんどが、義務教育期間内に特別支援教育を受けています。


注意しておきたいのは、「日本語で子育てした外国人ひとり親が悪い」ということでは決してない、ということです。


彼らは子どもを思う気持ちから、日本語での子育てを選択しました。そしてそのリスクについて、日本の社会は誰も助言することなく、学校などでは家庭における日本語でのコミュニケーションを強化するようにすら言われています。

 

「外国人ひとり親」

という状況のみですでに、何らかのサポートが必要な存在であることを社会が認識し、言語発達に関する正しい知識が園や学校など、外国人保護者自身やそこにかかわるすべてのアクターに共有されること。家庭内での母語育成を支えつつ、学校や支援機関による日本語の力の伸長が図られるべき状況でした。

 

日本で生まれ育ったからと言って、環境次第では日本語の力すら伸び悩んでしまう。日本語しかできないが、その日本語の力が不十分、といった状況は、子どもの抽象的な概念の獲得を阻害したり、(あたまの中で物事を)考え、理解するために要する言葉の不足を意味します。それが成長過程の子どもにもたらすさまざまな困難をぜひ、一度想像してみていただければと思います。

 

 

*写真はイメージです。

 

 

 

*外国人保護者の方に、母語の大切さをお伝えするリーフレットを愛知県が作成しています。無料でダウンロードが可能ですので、身近に外国人保護者の方がおられる方はぜひご活用ください。

母語教育サポートブック『KOTOBA』-家庭/コミュニティで育てる子どもの母語-を作成しました | 愛知県