NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/ 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援事業運営を担当。Yahoo!ニュース個人オーサー。2児の母。

ことばか環境かー発達障害の可能性を有する外国にルーツを持つ子ども

 

 

先日、とある講演会で神奈川県大和市の教育長である柿本隆夫さんとご一緒させていただきました。柿本さんは、長年中学校の国語の先生を勤められ学校で出会った外国にルーツを持つ子どもたちをきっかけに、支援団体の設立にも携わったことのある方です。

 

昨年より神奈川県大和市の教育長にご就任されたとのことでしたが、特に母語も日本語も十分でないセミリンガル(ダブルリミテッド)の子どもたちが抱える「抑圧」、その解消のために非行や他害、自傷など危険な行為や日本人、日本社会に対して抱いてしまう怒りや恨みの感情など、生々しい現実をストレートに語る口調の端々から、子どもたちへの深い愛情が感じられる方でした。

 

その柿本さんが最近「気になっていること」として挙げておられたのが、外国にルーツを持つ子どもと「発達障害の関連性でした。

 

 

小中学校などの現場で、外国にルーツを持つ子どもたちが発達障害ではないかと言われ、担任の先生らによりアセスメントを受けることを推奨され、アセスメントにかけてみると、“それなりに”アスペルガーの様相を呈したり、なんらかの診断を下される。そうして特別支援の枠組みの中に移ることも少なくないのだけど、これは本当に「障害」を抱えているということなのか。

 

日本語など、言語発達や環境の課題なのではないか。そうしてクラスに「ついていけない」子どもがどんどんと、特別支援へと流れてしまう現状に危機感を、会場に伝えておられました。

 

 

<現場ではすでに「ホットイシュー」>

 

この外国にルーツを持つ子どもと発達障害については、現場レベルでもどんどんと事例があがり、危機感が高まり始めているところです。

 

外国にルーツをもつ子ども達の場合、

 

学習面、コミュニケーション面などで他の子に比べて遅れが見られる

それが障害によるものなのか、それとも日本語能力の不足や文化的背景、家庭環境などによるものなのか、見分けるのが難しい

 

という点がもっとも大きな課題です。

 

例えば、何度教えても数学の解法が身に付かない子どもについて、
能力的に出来ない、という可能性もありますが、

 

・来日前の教育状況
 →特に開発途上国出身の場合、出身地域や所得階層などによっては基礎教育へのアクセスが限られる場合
 →出身国のカリキュラムが日本と異なる(日本より“遅い”)場合
 
母語の発達の状況

 →母語喪失やダブルリミテッドの場合、抽象的な内容への理解に困難が生じる可能性

 

・家庭の状況など、環境の変化

 →来日後、それまで離れていた親との「再統合」や養父、異親兄弟など新しい「家族」との出会い、異文化である日本社会での新たな生活など、ストレスで学習内容が身につきづらい状況である可能性も。(お子さんによっては、こうした状況を突破するまでに1年以上を要する場合があります。)

 

 

など、そのお子さんの来日前の状況や家庭内外での言語状況、支援の有無やその内容など、日本語ネイティブのお子さんにはない要素を加味して判断する必要があります。

 

こうした状況が、アセスメントを行なう医療関係者にどこまで伝わっているか、それ以前に学校や周囲の支援者たちがどこまで加味して、『「アセスメント」の必要性』を外国人保護者や本人に伝えようと判断するのか、など、まだどの点においても混乱が見られる状況です。

 

 

<言葉か、機能か・・・判定よりも重要なこと>

 

障害があるかどうかの判定方法が一日も早く確立されることも重要ですが、

 

・すでに、こうした子どもたちに直面をしている現場の方々が、少しでも子どもの状況を正確に理解し、子ども1人1人に合ったサポートができること。

 

・そのためのツールや手法が、実践的な方法で検証されること。


・こうした子どもたちをいち早く「発見」し、適切な支援へとつなぐ体制が整備されること。

 

が重要だな、と思っています。そもそも「適切な支援」自体が限られているという根本的な課題解決を同時進行させなくてはならない、という状況ではありますが・・・

 

外国にルーツを持つ子どものための数少ない専門機関のひとつとして、こうした子どもたち(と、その環境)の抱える困難と課題についても取り組みをさらに強化していきたいと思っています。