読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/NPO法人多文化共生子ども・若者プラットフォーム理事長。 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援を担当。7歳と3歳の2児を育てるフルタイムワーキングマザー。

外国にルーツを持つ”シングルリミテッド”の子どもと特別支援

前回のエントリー

 

ikitanaka.hatenablog.com

 

で、”発達障害”を持つ可能性のある外国にルーツを持つ子どもについて、その「発見」自体が困難であることをお伝えしました。

 

そのエントリーを書いているうちに、以前支援したある生徒について思い出すことがあったので、個人が特定されない範囲で脚色を加えお伝えします。

 

この生徒は、

 

ikitanaka.hatenablog.com

 

にてご紹介した「シングルリミテッド」という状況にあり、障害があるかどうかのグレーゾーンであったお子さんです。

 

 

 

<「漢字を勉強させたいだけなのに」>

 

日本生まれ、日本育ちの中学生のAと、外国出身の親御さんとの2人暮らしで、
親御さんはAさんが4歳になるころに離婚。以来、シングルペアレントとして、親御さんにとって第2言語である日本語(会話はある程度できるが、読み書きができないレベル)で子育てをしてきました。


Aが公立小学校に在籍していたある日、学校側から特別支援学級への通級指導を勧められ親御さんは自分が家庭で教えることができない「漢字」の学習をAにさせる良い機会になれば、と考えそれを受け入れました。


しかし、実際には親御さんが考えていた「漢字の指導」はほとんど行われず、
また、通級を受けている他のお子さんたちの様子を見て、「障害ではない自分の息子がどうしてここで勉強しなくてはならないのか」という疑問が残りました。


学校とのコミュニケーションの難しさから、その状況は変わることなく小学校を卒業。


中学入学前にひっこしをし、別の市町村へ移ったこともあり
Aは普通学級の1年生として中学に入学しました。


Aが中学に入学してしばらくしたころ、親御さんは学校側へ「Aに漢字の練習をもっとさせたい、日本語の勉強がAには必要だ」というようなことを話しました。いわゆる「取り出し授業」や放課後の補習授業などを期待していたのだろうと思います。


中学校はこの親御さんの希望を、校内の特別支援学級に通級させる、という形でかなえようとしました。そしてまた、親御さんもそれを受入れ、Aは特別支援の通級指導を再び受け始めます。


その間、日本語が「ある程度」通じる親御さんに対して、面談時の通訳はほとんどつかなかったようです。


通級指導を受け始めて、やはり特別支援の通級指導が、親御さんが望んでいる「日本語教育」ではないことに気づき、学校に再度「Aには漢字の勉強をさせたいんだ」ということを申し入れます。


すると学校は、市内の別の中学校への転校を勧め、Aはそれまでの通級指導型から特別支援の固定学級がある中学校へ転校しました。

 

このケースでは
1)保護者の日本語での高度なコミュニケーションが難しいものの、簡単な会話は可能なため特別支援入級等の重要な局面であっても、通訳の必要性が認識されなかった。

 

2)このため、外国人保護者は「特別支援」がどのようなものであるか、完全には理解する機会を得られなかった。


3)シングルリミテッドであり、日本語の日常会話はネイティブ並みのAに対して、「日本語教育が必要」ということが学校側に認識されなかった

 

この3つの要因が作用し合い、常に学校側の対応に不満と不安がつきまとうものとなってしまいました。親御さんがAに日本語の教育を受けさせたいと願うたび、その想いとは食い違う対応がなされ続けてきたのです。

 

 

<その後・・・>

 

私たちが親御さんと出会ったとき、彼は学校に対する怒りの気持ちを抑えることはありませんでした。


何度か、望まない検査を受けさせられ、日本語による検査を実施した医師や臨床心理士から傷つくような言葉を言われたこともあった。私の子どもは障碍ではなく、日本語ができないだけなのに・・・と。

 

私たちも彼らの抱える問題をなんとかしたいと思い続け、一方で、具体的な解決策が見いだせないまま日々を送ってきました。その間にも、Aは現場で特別支援学級では学ぶ機会のなかった英語や数学などの新たな知識をどんどんと吸収し、基礎学力を上げてゆきました。

 

「やはりAは機能的な障碍ではない」
という見方が現場では大勢となったころ、ある方より、外国につながりを持つ子どもの言語発達の専門家のセッションを受けてみては、というお申し出をいただきました。


親御さんも、Aも、そのセッションを受けることを了承してくれて、バイリンガル読書力評価ツール(B-DRA)という手法を使って、Aの抱える問題が「ことば」にあるのか「機能」にあるのかをみていただきました。


長い時間でしたが、Aは導かれながら文章を読み、考え、物語を自分の言葉で伝えるという作業をやり遂げることができました。詳しい分析の結果でも、Aの抱える問題は、「機能的なものではなく、ことば=日本語の発達によるものだろう」ということが所見として提示されました。

 

Aはその時点ですでに中学3年生。

このセッションの結果を受けて中学校ですぐに普通級へということは時期的にも難しかったのですが、都立高校受験を希望するAにとって、特別支援出身ではあるが機能的には障碍はなく、一般の学校で学生生活を送ることができるという自信を得ることができ、無事に定時制高校への入学を果たしました。


もちろん、特別支援出身であるからと言って入試になんら影響することはないということは、中学校の先生からも説明を受けていたところですが、何度も何度も、本人と保護者が納得していない形で普通級と特別支援の間を行ったり来たりしたAですので、今後はそのようなことがないようにという意味で、このセッションが果たした役割は小さくなかったように思います。

 

 

<「特別支援が必要なのではないか」と思ったら・・・>

 

Aのように「障害ではない」ケースがあるとは言え、定められたカリキュラムに沿って授業を進めていかなくてはならない学校にとって、クラス内で行なわれる授業に著しくついていくことができない児童、生徒に何ができるのか、というのは大きな課題であると思います。

 

たとえば地域に1つでも外国にルーツを持つ子どもに関する専門機関があれば、そちらへ支援や情報を求めてみることもできますが、もし学校の先生方がその機関の存在をしらなかったり、そもそも支援機関自体がないような場合はどのような点に気をつけたらよいのでしょうか。

 

1)親御さんや本人が日本語が「話せる」ことに惑わされず、重要な局面では通訳をつける。

  加えて、文字情報を大切な部分だけでも翻訳しておくと、後から確認することもできて尚良いでしょう。

 

2)日本語が母語でないことで生じる、あらゆる可能性について検討する。

 

3)「特別支援」のシステムや内容、メリットやデメリットなど、「このくらいは知っているだろう」という前提を排除して伝える。

 

 

など、日本語ネイティブの親子への対応より、さらに丁寧な配慮が求められます。

 

本来であればプロセスのすべてに外国にルーツを持つ子どもたちの抱える課題や背景などに対する理解をもつ第三者が寄り添えるようなシステムや、広域での専門的なネットワークの整備など、体制を整えることが重要不可欠ですが、それが実現するまでの間にも、現場で苦しむ子どもたちがいることを考えると、現在こうした子どもたちと向き合う学校の先生方や、支援者の方々1人1人の理解と適切なアクションが求められると感じています。

 

私たちの現場では、外国にルーツを持つ子どもと関わる地域支援者および学校の先生や関係機関の方々からの電話やメールでの相談も受け付けております。

 

教材はどうしたらよいか

どのように日本語を教えたらよいか

外国人保護者とのコミュニケーションはどうしたらよいか

 

など、お気軽にご相談いただけます。

答えが出ない課題も多くありますが、ともに外国にルーツを持つ子どもたちにとっての最善を探して行けたらと思います。

 

お問い合わせ先:http://kodomo-nihongo.com

 

 

*個人が特定されるのを避けるため、必要な範囲での脚色を加えています。

*この記事では、本人も保護者も完全には納得していない状況で、
特別支援学級へ通級してきたケースについて書いています。
特別支援学級のあり方や、そこへ保護者も当事者も納得して通級されている方々について批判する意図はないことを申し添えます。