日本語を母語としない子どもを「言語難民」にする、大きな誤解。
先日のエントリー、
のタイトルにつけた「言語難民」という言葉。
J-WAVEの放送作家で、劇団東京フェスティバルを主宰されている、きたむらけんじさん(@tokyofestival )が、日本語を母語としない子どもや、海外にルーツを持つ方々の言語習得・言語教育に関する困難な状況と課題を知り、一般の方々にこの問題が伝わりやすいように、と考えてくださった言葉です。
海外にルーツを持つなど日本語が分からない状態で公立学校に通う子どもが全国に3万7000人もいる!言語って、その国に住めばやがて喋れるようになるという認識があるので補助教育の必要性が認知されづらいかもしれない。そうした状況にある人を『言語難民』と呼んではどうだろう? #jwave
— きたむらけんじ (@tokyofestival) 2015, 10月 6
特に子どもは特に言語教育がなくても、「耳で聞いてすぐに覚えることができる」という誤解が根強くあって、日本語教育の必要性が理解されづらい状況です。
確かに大人より、適応する力が高い子どももいて、驚く程速く上達する場合もありますが基本的には、「耳で聞いて習得できる」状況にはいくつかの前提条件があります。
1つ目は、9~10歳よりも年齢が低いこと。この年齢が言語の自然習得の限界点だと言われていて、これは現場での実感値にも合致してきます。
昨年度、私たちのスクールにやってきた中学に在籍する生徒は、来日後1年以上、なんの支援もないまま、ただ学校の教室に座り続ける日々を送りましたが、「おはよう」や「だいじょうぶ」以外の日本語はほとんど話すことができないままでした。
また、以前に支援をした別の中学生は、小学1年生の時に来日し、小学校6年間無支援の状況に置かれていた結果、日本語はカタコト程度に留まり、母語も年齢相応には届いていない状況で「発見」されました。
お子さんの家庭の環境や元々の性格などにもよりますが、少なくとも、10歳を超えている場合は、日本語の第2言語としての習得を支援することのできる、専門的な知識を持った日本語教師によるサポートが必須であると考えています。
2つ目は、母語がしっかり育まれている安定した環境にあること。その子どもと、最も愛着が形成されている関係にある大人が、一番自由に使うことのできる言葉で子育てができる環境にない場合、その子どもの第2言語となるべき日本語の習得にも支障が出る場合があります。
何度も繰り返しお伝えしていますが、日本語を母語としない保護者の中には、日本の保育園や学校、支援機関などで、お子さんについて「日本語が早く上達するように、家の中でも日本語で会話を」と言った”善意のアドバイス”をされている方が少なくありません。
あるいは、日本人男性と結婚・同居している場合に、その男性または男性の家族から家庭内での外国語の使用を禁止されているケースもあります。
現場では、こうして非母語である日本語のみで育てられてきた子どもたちと、数多くであってきましたが、その内の大半のケースで、「シングルリミテッド」と私たちが呼んでいる現象が発生しています。
これは、私たち周囲の人間が、正しい情報を持っていれば避けられる可能性が高い現象であり、誤解を恐れずに言えば、不正確な誤解に基づく情報を”善意でアドバイス”したり、積極的に伝える努力をしないがために、子どもたちの発達に大きな影響を与えた、人為的な現象である可能性が高いのです。
どうぞ正しい知識と理解を持って、子どもたちの「言語難民化」を、共に防いでいきましょう。
<母語の大切さについて、より詳しく理解するために>
関西母語支援研究会さんのウェブサイトを、ぜひご覧下さい。
education-motherlanguage.weebly.com