NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/ 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援事業運営を担当。Yahoo!ニュース個人オーサー。2児の母。

外国人家事代行サービス特区解禁―外国人ベビーシッター利用経験から、思うことなど。

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以前から話題になっていましたが、家事代行サービスへの外国人労働者の受け入れが、国家戦略特区の神奈川県と大阪府で解禁されることになりました。

 

www.nishinippon.co.jp

 

いろいろと賛否両論あるニュースですね。

そもそも家事代行サービス自体も、まだ一般に浸透しているものではなく、料金の高さや、後ろめたさなど、実際に利用するまでのハードルが高いものだな、と感じています。一方で、経産省は、家事代行関連サービス市場は将来的に6,000億円程度の市場規模となる、と推計しています。また、以前と比較して、働きたい・働き続けたい、という女性自身の声の高まりや、女性の”活躍”を推進しようとする政府の戦略などもあいまって、おそらく一定の需要は開けてくるものなのだろうと思っています。

 

でも、やっぱり「知らない他人を自宅に上げる」うえ、自分たちが汚した部屋や洗濯物をきれいにしてもらう、ってこと心理的に抵抗あるよなーと思います。

まして日本語が通じない外国人の方となると、「いったいどうなるの!?」「うちは外国語ができないし、無理」と感じる方も少なくないかもしれません。

 

 <私の外国人ベビーシッター体験>

実は私は個人的に、外国人の方にベビーシッターをお願いしたことがあります。現在小学1年生の私の長男が生まれて間もない頃、事情があって産後すぐに仕事をしなくてはならない環境にあり、長男を保育園に入れるまでの3ヶ月程度、子守をしてくださる方を探しました。

 

たまたま知り合いのフィリピン人の女性が引き受けてくれる同郷出身の友人がいるということで、その他に名乗り出て下さった日本人を含む数名の方との面接を経て、感覚的に「しっくりきた」フィリピン出身の「フジモトさん(仮)」にお願いをすることにしました。

 

フジモトさんは週3日、9時から夕方の4時まで私の住んでいるアパートにやってきて、3ヶ月間、私の息子の世話をしてくれました。彼女はフィリピン出身の40代の女性で、わが子をフィリピンに残して来日し、日本人男性と再婚して、私の住む地域から電車で20分ほどのところに暮らしていました。フジモトさんは「日本人の配偶者等」という在留資格で滞在し、日本での就労に制限はありません。

(子守をして下さった時間分は、謝礼をお渡ししています。謝礼は、その当時の最低賃金より少し高いくらいの金額でフジモトさんと合意し、内容は書面にまとめました。)

 

<フジモトさんのお仕事の流れ>

フィリピンにいた頃は、「ヤヤ」と呼ばれる乳母の仕事を、比較的豊かな家庭に雇われてしていたことがあるということで、ご自身の子育て経験を含め、子どもの扱いに不安を感じることはありませんでした。

 

ただ日本式の子育ては経験したことがない、ということで、ミルクの与え方やオムツ交換のタイミング、衣服の調整などについて日本ではこうする、ということは伝えました。

 

簡単な日本語の日常会話はダイジョウブ、というフジモトさんでしたが、きちんと理解してほしいことや、子どもの世話に関することは原則として英語とタガログ語(私はフィリピンに住んでいたことがあるので、英語と簡単なタガログ語は話せます・・・)で伝えました。

 

  • 朝→フジモトさんが来たら、まずその日の息子の睡眠のタイミングや授乳の間隔、体調(お散歩に連れて行ってもらうかどうかなども)を口頭で伝えつつ、メモとしてその場で(英語で)書いて残す。

  • 私外出→子どもの様子は、実際の授乳時間や排泄した時間、様子、睡眠などについて数字のみを記入すれば良いようにオリジナルの報告シートを日本語・英語併記で作成しておいて、毎回記入してもらう。

  • 帰宅後→報告シートを元に、その日の息子の様子を教えてもらい(大体ここで少し雑談したり、時々一緒にお茶をしたりして)、次回について確認をして勤務終了

 

という流れです。

 

<子守りだけじゃなかった!スーパー”ヤヤ”(乳母)>

フジモトさんと約束した仕事の範囲は「ベビーシッター」でしたが、生まれて数ヶ月の息子が「寝ている間、暇だから掃除や洗濯をしてもいいか」と彼女自ら申し出て下さり、申し訳ないな、と思いつつも正直かなり大変だったのでお願いすることにしました。

フジモトさんは、息子が寝ている間に手際よく食器を洗い、洗濯を干し、床を拭き上げ、トイレを磨いてくれました。時には私の携帯に電話をかけてきて「冷蔵庫にあるものを使って、夕飯を作ってもいいか」とまで・・・。私が帰宅したときには、毎日日本人のご主人のために作っているというおいしい和食や中華、時に私の大好きなフィリピン料理ができあがっている、というありがたい日々でした。

 

フィリピンでは、子どもの世話を「ヤヤ(乳母)」にお願いすることは珍しいことではありません。ヤヤは時に親戚であったり、知人を介して紹介された若い女の子だったり様々ですが、子どもの遊び相手から食事や排泄の世話、学校の送り迎えや簡単な家事まで担うことも。

また、ヤヤが不要な家庭でも、「カトゥロン」と呼ばれるヘルパーさん(家政婦)を住み込みか通いで雇って、料理などを含む家事をお願いすることも、一定の所得階層以上の家庭では当たり前に行われています。(» メイド暮らしのガイド | フィリピンプライマー

 

彼女は富裕層の家でヤヤをしていたこともあり、子どもの世話の仕方や遊び方、「雇い主=子どもの親」とのコミュニケーションも申し分なく、出過ぎることもなければ、引きすぎて仕事行儀になりすぎることもない(好き嫌いあると思いますが、個人的には、フジモトさんのこうしたスタンスのおかげで、気を遣わずにすみました)、完璧な仕事ぶりでした。

 

数ヵ月後、息子の保育園入園を機にベビーシッター終了となった頃にはお互いに涙を流して別れを惜しむくらいに、私にとって大切な存在となっていました。彼女なしには、第1子出産後のあの時期を乗り切ることはできなかったかもしれません。

 

<今、フジモトさん以外の誰かに家事をお願いできるだろうか>

 今、夫婦共にフルタイムの共働きで、2人の子育てに追われ、ハイテク家電(ルンバ、洗濯乾燥機、食洗機)をフル活用して日々を乗り越えていますが、やはり家事に費やす時間が圧倒的に足りず、家が散らかり、洗濯物が溜まって子どもがその日着ていく服がない、というような日は「またフジモトさん、来てくれないかな・・・」という気になることも少なくありません。

 

実際に、またお願いできないか聞いてみたこともあるのですが、すでにフジモトさんは工場のパートに出ており、頼むことができませんでした。また違う人を探して、フジモトさんのようなすばらしい方と出会える可能性はゼロではないですが、「ハズレ」た時のリスクを考えると、なかなか踏み込めていません。

(フィリピンに暮らしていた頃、私自身は家政婦さんをお願いしていませんでしたが、周りの日本人の方々と彼らの雇っていた家政婦さんとの間のトラブルは頻繁に耳にしました)

 

<語学じゃなくて、やっぱり相手との信頼関係が大切>

フジモトさんとの関係がうまくいったのは、やはりお互いのコミュニケーションの積み重ねによる信頼関係があったからこそだったなーと、今振り返って思います。

雑談を含めて、人柄を知ることができたことは、人見知りの私にとって安心材料となりました。英語もタガログ語もまったく話せない私の夫の場合は、直接彼女とコミュニケーションはとりませんでしたが、日本語・英語を併記した日々の報告シートや仕事の成果(掃除や食事)を見て、彼女に信頼を寄せていました。

 

個人的にベビーシッターとして子どもの面倒をみていただくにあたっては、大切なわが子をお願いするということもあり、事前に仕事内容をしっかり確認し、子育て方法での文化差による行き違いを防ぐための情報提供をし、日々の様子を確認するためにオリジナルのフォーマットを用意して、毎朝と帰宅後の情報交換をしっかりして、謝礼や経費は遅れずに払うなど、「お願いする側」としてやるべきことをしておいたことは、フジモトさんとの信頼関係を築く上でもとても有効だったと感じています。(ここは実際には派遣元の企業が担う部分ですね)

 

こうした利用者とサービス提供者間のコミュニケーションと信頼関係の構築を、外国人家事代行サービスの場合にどこまで派遣会社がサポートできるか、が定着のカギを握っているのではないかなー、と、短いながらフジモトさんとの関係を振り返って思っています。

 

家事代行サービスであれば、ベビーシッターと比べそれほど密なコミュニケーションはいらないかもしれませんが、いくら来日前に日本語や日本の文化について学んできたとは言え、日本と言う外国にやってきて言葉が十分には伝わらない環境で、不安を抱えながら働くこと、また、そうした人を自宅に上げて家事をしていただくことは双方にとってあまり楽しいことではありませんよね。

 

「この人なら大丈夫」と利用者側が思ってもらえるようなサポートだけでなく、家事代行サービスを提供することになる外国人の方々が、「この派遣会社なら大丈夫」「この会社から派遣された家庭なら安心」と思って働けることが大切なのではないかと感じています。

 

<「外国人だから」ではなく、「人だから」>

 

最後に一つ、気になっていること。

今、家事代行だけでなく、介護や農業などの分野で急速に外国人労働者の受入れが進んでいます。それが「研修生」であろうと「EPA」であろうと、そうでなかろうと、日本の社会のために汗を流して下さる方々は、外国人という「労働力」ではなくて共に地域で生活する1人の人間です。私たちの仲間です。生活があり、心があり、家族があり、楽しく幸せに、安心してより良く生きる権利を持っています。

 

また、一度受入を行う以上、彼らは日本社会で家族と共に暮らしたいと考え、子どもを呼び寄せ、その子どもたちが公教育を受けるくらいのことはしっかり前提として考えておかねばなりません。また、日本で誰かと出会い、恋をして新しい家族を築く若者もきっといるでしょう。人が働く、ということは「稼ぐ」以上に生活そのものであることを、日本社会全体が認識する必要があると感じています。

 

現在、日本は外国人の方々にとって「働きづらい国」として認識されつつあるようです。賃金も、開発途上国出身の方々にとってもかつてほど魅力としては映らない。日本が「外国人を受入れます。働いていいですよ」といくら門戸を開いたところで、彼らが喜んで日本で働きたい、と考えてくれるかどうかは今後の日本の努力しだいと言った状況です

 

日本で働いている、これから働くことになる外国にルーツを持つ方々が、「日本はいいよ」「働きやすいし、安心だよ」と心から言える環境の整備が、少子高齢化による人材不足にあえぐ日本にとって、重要となるのではないでしょうか。

 

 日本と言う国で生活することで、いろんな人がハッピーになれる。母国がそんな国になってくれたら、単純にいいね!って思います。