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NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/NPO法人多文化共生子ども・若者プラットフォーム理事長。 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援を担当。7歳と3歳の2児を育てるフルタイムワーキングマザー。

日本語ができないとどうなる(1)? ー幼少期に来日した子ども

外国にルーツを持つ子ども・若者

ひとくちに「外国にルーツを持つ子ども」といっても、彼らのバックグラウンドは実に多様で、国籍や母語、文化や肌の色などの違いだけでなく、来日年齢や家庭環境、居住地域(外国人が多い地域なのか、ほとんどいない地域なのか、など)等によってニーズや抱える課題が異なることもあります。

 

いずれにせよ、外国人学校ではなく日本の公立学校に在籍する場合は適切な教育(支援)機会の有無が大きく彼らの日本社会での生活を左右します。

 

こうした子どもたちが、日本語ができない状況でどのような困難を、主に生活の主たる場となる学校において抱えやすいのか。いくつかの事例に基づいて再構成した「物語」を、ケースごとにご紹介します。

 

 

今回は、幼少期(~9才ごろまで)に来日した子どもの物語です。

 

 

<転入直後>

教室で、小学生たちと(内容と写真は関係ありません)

 

学校に転入してきた当初は、外国にルーツを持つ子どもたちは「アイドル」として扱われます。学校側の気遣いもあり、英語がある程度話せる教師が担任となったり、クラス内で英語のできる生徒が「お世話役」として任命されることもあり、受け入れ時にはまずまずスムーズなスタートを切ります。

 

 

 

(現場で小学生とお昼ご飯 

*写真は内容とは無関係です)


学校によっては、母語のできる通訳を授業内でつけたり、日本語学級に通級させたりなどの支援が入ります。

 

 

<数週間~数ヵ月後>

 

一方、数週間~数カ月経ち、日本語が(日本人の期待値より)上達せず、コミュニケーションの壁が高止まりしたり、外国にルーツを持つ子ども自信がオープンな性格でなかったりすると、クラスメートの多くがかつてのアイドルとの「交流」に飽きたり面倒くささを感じるようになります。


お世話役を任じられ、はりきっていた子どもも会話の成立しない関係を重荷感じるだけでなく、外国にルーツを持つ子ども自身も、うまく話せない日本語でのコミュニケーションに負担を感じ、会話や接触を避けるようになります。

 

 

小さな子どもであればあるほど、「言いたいことを言葉で表現できない、伝えられない」もどかしさがストレスとなり、そのストレスを紛らわせる手段が持てず、落ち着きがなくなったり、クラスメートに殴りかかったり、ふさぎ込んだりなどが起こることも。

また、頭痛や腹痛など身体的な症状を訴える場合も少なくありません。

 


こうした状況下で教師自身も情報不足やサポート不足から「何かしたいけど、これ以上どうしたらよいかわからない」という状態に陥り行き詰まってしまうことで、結果として教室内で「放置」してしまう事態に。

 

 

さらに、学校が用意した通訳や日本語学習支援の「期日」も過ぎ(概ね30数時間~120時間程度)、外国にルーツを持つ子どもは、学校”内”で心許せる大人との時間を失いはじめます。

 

 

学習面では、幼少期に来日した子どもが学校で学ぶほとんどの勉強が、はじめて学ぶ内容であることが、日本語がわからない彼、彼女らを置き去りにしてゆきます。

もしこれが、出身国で一度でも学んだことがある単元であれば、もしかしたら推測しながら授業に参加することもできるかもしれませんが・・・

 

 

こうしてほとんど、あらたな学習内容を習得しないまま時間が過ぎることで、外国にルーツを持つ子どもは、基礎学力を積み上げる機会自体を喪失してゆきます。もし数年後に日本語がわかるようになったとしても、日本語がわからなかった期間の学習内容は“未習得”、空白となってしまいます。

 

 

<家庭の中で>

 

幼少期に来日する子どもの場合、同国出身者の実両親が生まれたばかりの子どもを親戚に預け、先に来日し経済的基盤を固めてから呼び寄せることが多いようです。

ひとり親家庭の下へ呼ばれる子どもも少なくありません)

 

生まれてからほとんど共にすごしたことのなかった親御さんと共に暮らせることは、子どもにとって大きな喜びです。

一方で、親御さんにとってお子さんについての確かな情報は離れてくらすまでのごくごく小さなころのことに留まってしまうことがあり、わが子がどのような性格で、どのようなものが好きで嫌いなのか、どのようなことが得意で苦手なのか、など預けてきた親戚から得られるわずかな情報が頼りの数年間でした。

 

 

そして目の前に共に暮らすために現れたわが子の姿に、戸惑ってしまうことも。

 

 

思っていたより落ち着きがない

聞いていたより勉強ができない

何を考えているのかよくわからない

 

 

など、家族としての再統合、再出発は必ずしもスムーズなスタートになるとは限りません。

 

 

また親御さんがひとり親であったり、両親共働きの場合、せっかく呼び寄せたわが子と共にすごせる時間がごく限られていて、夜勤のため夜中は親御さんが不在、日中は子どもが学校で不在、というようなすれ違いの生活を送らざるを得ないことも、日本語がわからずストレスにさらされる学校生活を送っている子どもにとっては、つらい状況に陥ってゆきます。

 

 

<来日1年前後~その後>

 

このような状況がしばらく続くものの、言語の自然習得臨界期である9才~10才より前に来日した子どもの場合は、おおむね1~2年程度で日本語の日常会話にはある程度困らないまでになることも

 

 

学校生活でのストレスはやや軽減され、友達ができ楽しんですごすことができるようになる子どもも少なくありませんが、日本語が理解できるようになるにつれ、クラス内での「空気」が読めるようになり、居心地の悪さや居場所のなさ、「いじめ」の再認識(悪口、が理解できるようになる・・・)をする子もいます。

 

 

また、会話の力は耳で聞いて伸ばすことができたものの、学習言語と呼ばれる「考え、理解する」ための勉強に必要な日本語の力は伸び悩み、もともと空白の大きかった学習についていくことは簡単ではありません。さらに小学校4年生ごろから急に難しくなる学習内容が追い討ちをかけ、かつて珍しさからアイドルとして扱われた子どもも、『日本語が上手なのに「勉強ができない(だけの)子」としてのレッテル』が強く貼られていくことに。

 

 

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すべてのお子さんがこのような状況に陥るわけではありません。

 

ただ、日本語の適切な支援を受けなければ「耳で聞いて覚えられる」可能性の高い9才~10才より小さな子どもたちですら、日本語で学校の勉強を理解できるようになる、までにはほとんど至りません。

 

10才を超えて来日したお子さんの場合は、なおさらに日本語の会話ができるようになるまでにも、文法的な積み上げをもって日本語を習得していくことが最短ルートとなっています。

 

小さな子どもだからと言って「自然に覚えるに任せる」のは現場での経験からも、数々のリサーチからもリスクが高いことがわかってきていますが、学校の先生方をはじめ外国にルーツを持つ子どもたちと出会いやすい方々の理解はまだまだ得られていない状況です。

 

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言語的なリスクに加え、経済的な困難を抱えることはさまざまな可能性をより、外国にルーツを持つ子どもたちから奪ってゆきます。