NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/ 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援事業運営を担当。Yahoo!ニュース個人オーサー。2児の母。

『意図せず、外国人に大量のワサビを盛る国、日本』はイヤだ。

本当の悪意を自認して差別している人間はそう多くない。

大阪にあるチェーンの寿司店で韓国や中国から来た方々を中心に、わざと大量のワサビを入れた寿司を提供していた件。最初はネタなのかと思っていましたが、店側が「謝罪文」を掲載する事態となり、新聞でも報道され、実際に起きた事実であったことがわかりました。

店側は「差別的な意図は全くない」と否定していますが、意図的か意図的でないかは免罪符にはなるでしょうか。

 

いじめる側や差別をする側、他者を傷つける側の人間が、本当の悪意を自認してそれを実行している、ということは子どもから大人まで、そう多くはないのではないかと感じます。

「意図していなかった」「軽い気持ちだった」「冗談のつもりだった」「そこまで傷つくとは思っていなかった」

加害者側の言い訳としてよく並ぶ文言です。

 

おそらく、全員ではないものの、少なくない数の「加害者」が、本気で「軽い気持ちだった」と思いながらいじめや差別を行っているのではないでしょうか。

 

 

「意図しない差別・いやがらせ」、身近にも。

当然のことながら、被害者側はそうは思いません。「差別的な意図なく大量のワサビを外国人だけに盛る」という行為が招いた結果は、海を越えて日本という国のイメージを損なうものとなりました。

 

今回はワサビテロとも言われている事態が、インターネットを通じて明るみに出ましたが、こうした「意図しない差別・いやがらせ」は大なり小なり日常茶飯事に起きているのではないかと感じています。

 

最近外国人アルバイトが増えたコンビニや牛丼チェーンなど。そこで働くアジア系の留学生の若者に、横柄な態度をとる客の姿を、見たことはありませんか?(私はあります。”偶然”にも、何度も) 


「ハーフタレント」や外国にルーツを持つ芸能人の方々がこぞって過去の「いじめ」体験を語る、その内容がどのタレントさんのものも似通っており「あるある」だな、と思ったことはありませんか?(肌や目の色の違いを気持ち悪いと言われる/国に帰れと言われる、など)

 

それは加害者側や一般の方々にとっては「偶然」かもしれません。「たまたま」起きたできごとなのかもしれません。

 

しかし、被害を受けた側とっては忘れることのできない出来事として、胸に刻まれます。「ハーフタレント」の方々の相次ぐカミングアウトは、被害を受けた側の心の傷の大きさを端的に証明しているようです。

 

私たちの身近には「悪気のない」「意図しない」「軽い気持ち」の差別があふれています。私が支援する外国にルーツを持つ子どもたちも、いじめや差別の経験を語る子どもは少なくありません。

 

インターネット上では、「日本は島国で、歴史的地理的経緯上、”そういう”文化や気質があるので・・・」というエクスキューズを見ることがありますが、だからと言って「意図しない」行為の免罪符になるとは思えません。

 

今、メディアでは「外国人が驚く日本」「日本大好き外国人」など、何かのプロパガンダかと思えるような番組が連日のように放送されています。まるで「日本人は地理的・歴史的・文化的・精神的に特殊である」ことを強調するかのように。

 

しかし、果たして日本はそれほど特殊な国なのでしょうか?私たちは特別な存在なのでしょうか?だから、「意図せず、外国人に大量のワサビを盛る」というようなことをするのでしょうか?しても、許されるのでしょうか?

 

この国の「閉鎖性」については否定しません。そうしたものを育みやすい社会的な特徴があるかもしれないことも、理解できます。しかし、そろそろ私たちはその「特別な国日本」を過去のものとする必要があるのではないでしょうか。

 

ワサビのツケを日本社会全体で負うことになる時代

 

「日本のある地域の小さな店の店員」の起こしたワサビの一件、20年前であればこれほど世間を騒がすことはなかったかもしれません。嫌な思いをした外国人のお客さんが、身近な友人や知人にその思い出を苦々しく語る程度で、あくまでも「運が悪かった」ということで収束したのかもしれません。

 

きっと、ガイドブックにも「この店はワサビを盛りすぎるので注意」などというネガティブな情報が活字として掲載されることはなかったでしょうし、その影響は限定的だったかもしれません。

 

しかし今や情報発信の主体は個人となり、ポジティブな情報もネガティブな情報も、すぐさまインターネットを通して全世界に発信できる環境が整っています。ワサビ寿司も写真という決定的な証拠付きで、あっという間に(言語障壁を除き)誰もがアクセスできる情報として駆け巡りました。

 

そして悪いことに、こうした情報は、一語一句が記憶に残るとは限りません。

 

「日本のある地域の小さな店の店員」という主語は、情報がめぐるうちに「日本のある地域の店」となり、最終的には「日本の店」や「日本」「日本人」と単純化され、人々の記憶に定着することにもなりかねません。

 

「日本のレストランで外国人は大量のワサビを盛られる」

と聞いたら、どう思うでしょうか?

 

いっしょくたにしないでくれ、と思うかもしれません。しかし、インターネットが張り巡らされた現代に、そうはいかないリスクをすでに私たちは背負っています。改めて鎖国でもしない限りは、逃れられない現実です。

 

さらに、今は外国人観光客だけでなく、外国人労働者やその家族の受け入れが進みつつあり、「お客さん」や「地域住人」として、日本人だけのことを考えてビジネスやサービスを組み立てていては、対応が間に合わない局面も増えてきています。

 

インターネット上では悪い情報は光のようなスピードで駆け巡りますが、同時に、良い情報もしっかり発信され、蓄積され、誰もが自由に引き出すことができるのも特徴です。「特殊な国」として大切に育んできた文化や風土、ホスピタリティ。今、この時代にこそ積極的に外国人の方々に体験し、喜んでいただく事で、「日本の良いところ」を広げていくことができるのだろうと思います。

 

そろそろ「特殊な国ジャパン」は過去のものにして、新しい時代の日本に向かって歩んでいけたらいいな。