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NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/NPO法人多文化共生子ども・若者プラットフォーム理事長。 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援を担当。7歳と3歳の2児を育てるフルタイムワーキングマザー。

「機能的非識字」による経済・社会的損失が、日本は約1兆円!?

毎年、9月8日は『国際識字(しきじ)デー』であることをご存知でしょうか?

1965年にUNESCOが宣言して以来、識字の重要性や取り組みについて再認識するためのイベントが世界各地で開かれています。

 

 

 

「識字」というと、開発途上国の女性や子どもたちの姿が浮かぶ方が多いのではないでしょうか。識字に関する統計を見ても、日本は識字率99%とあり、他の先進諸国にとっても「過去の、解決済みの課題」と言ったイメージが強いように思います。

 

実は『識字』には2種類あり、一般にイメージされやすい「識字」の目安は母語で自分の名前を書くことができる(つまり、「非識字」は自分の名前を書くことができない)状態にあるかどうか。日本語で言えばひらがな、カタカナなどの文字の読み書きができるかどうか、という基本的な能力を指しています。このレベルであれば、小学校への就学率と照らし合わせて「識字率99%」という言い方は正しいと言えそうです。

 

 

<もう一つの”識字”は身近なところに>

 

もう一方の識字の力は「機能的識字」(そうでない状態を「機能的非識字(Functional illiteracy)と呼ばれます。基本的な日本語の読み書き(識字)は可能であるものの、それを機能的に利活用する能力の有無を示しています。

 

例えば、

・家電の説明書を読んで、その通りに設置したり利用する
・災害情報を文字で理解し適切な行動をとる(これは重要ですね)
・薬の服用方法について書かれた説明文書を読み、正しく服用する
・法的な契約書等を理解し、適切な判断のもと契約を行う
・新聞に書かれている内容、掲載されている表やグラフが表している数値の意味を理解し、適切な情報を得る

など、日常生活に欠かすことのできない能力です。

 

ここまで並べると、上記のようなことができない「機能的非識字」状態の方々は、日本にも「いるかもしれない」と思えてくるのではないでしょうか。

 

WIREDニュースでは過去にイタリアのライターが、

wired.jp

という衝撃的なタイトルの関連記事を執筆していました。イタリアでは、10人中3人が、機能的非識字なのだそうです。

 

母語で」という制約を取り除くとしたら、まさに、私たちの現場で出会う外国にルーツを持つ子どもたち(およびその保護者)は、日本社会において「機能的非識字」の状態に陥っている、あるいは陥りやすい存在であると言え、彼らの抱える困難の一端を表し得るキーワードであると思います。

 

 

<”先進”か”途上”かにかかわらず>

 

この(機能的)非識字についてのレポートが先月、

http://worldliteracyfoundation.org/

というNGOから公表されました。

 

そのレポートのタイトルは「The Economic & Social Cost of Illiteracy(非識字による経済・社会的コスト 」といいます。レポートの推計によれば、日本における非識字(機能的非識字を含む)が及ぼす経済・社会的損失はなんと、年間約1兆円(約$84bn)に上り、米国や日本などGDPの高い国であればあるほど、その影響力は大きいことが以下のグラフからわかります。

 

(出展:the guardian "Illiteracy will cost global economy $1.2tn in 2015”より)

 

(経済的に発展した社会であればあるほど、高度な情報処理能力を必要とする仕事が多くなり、非識字者の就労がより限定的になることや、社会保障費用が割高であることなどが理由として考えられます)

 

 

<”非識字”がもたらすリスクは個人にとどまらず>

 

非識字の状態は、さっと考えても
・不安定な雇用や失業のリスク
・病気が長期化(適切な服薬や健康管理能力の欠如)
・犯罪に巻き込まれやすい(不利な契約文書を理解できずだまされる、など)
などのリスクが高まる、ということは想像がしやすいのではないでしょうか。

 

また、そうした個人や家族が増えることで、社会にとっても生産性の低下や医療等社会保障にかかるコストの増加などの影響があるということも、容易に想像できます。

 

逆に言えばこうした非識字の課題を解決することで、(約1兆円の損失を出しているとされる日本であれば)プロジェクトにかかる経費を差し引いても大きなリターンが望まれるということになります。

 

ちなみに、文科省の委託事業を受けていた時代、1人当たりの外国にルーツを持つ子どもにかかる年間の教育支援費用は20万円未満でした。この規模で、1年に100人以上が専門家による支援を受けることができます。

 

支援機関を最大限長く見積もり5年としても、1人当たり100万円です。この100万円で非識字状態を回避し、教育を受け、就労し、社会的に自立してその力を社会に還元する・・・という楽観的で最善のストーリーであれば、支援を受けた個人にも、社会にも損失はありません。

 

この社会的投資としての「支援」。長期的な視点で見た時にもたらされる社会的な便益の大きさは、若年無業者に対する支援においても関係者から言及されているところです。

 

民間団体である私たちは、クラウドファンディングなどを通して、個人や企業の皆様のご協力を仰いでいるところですが、外国にルーツを持つ子どもや大人だけでなく、(機能的)非識字状態に苦しむすべての方々に対して、公的にも経済・社会的リターンを見据えた投資の視点に立って(そして日本社会に暮らす一個人の幸せの最大化を目的として)拡充されるよう強く望んでいます。