NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/ 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援事業運営を担当。Yahoo!ニュース個人オーサー。2児の母。

都立高校定時制出願当日に、外国にルーツを持つ若者が小学校卒業証明の提出を突然求められた件の一部始終と、東京都教育委員会の方への心からのお願い

2月4日、スタッフからの連絡にわが目を疑う

外国にルーツを持つ若者の高校進学をサポートし続けて6年。

日本語を母語としない子ども・若者の都立高校進学が狭き門であること、このブログでもお伝えしてきましたが、当スクールにやってくる生徒の多くは、他に選択肢が持てず、定時制高校がその進路になります。

周辺には4校の定時制高校があり、うち3校では、当スクールからの”卒業生”を含め、少なくない数の外国にルーツを持つ若者が学んでいます。(ご高齢の方の学び直し目的での通学はあまり多くありません)

今年もスクールから6名の生徒が都立X高校定時制に出願することになり、2月4日の夕方、多文化コーディネーターの引率で出願にむかいました。

 

私はその時、別の場所にいたのですが、スタッフからの連絡で6年の支援期間の中で初めての事態が発生していることを知り、わが目を疑いました。信じがたい出来事に、連続で状況をツイートしたところ、多くの方が関心を持って下さり、助け舟のお申し出もいただきました。

 

その時のツイートがこちらです。

 

 

結果からお伝えすると、小学校卒業証明を求められた生徒とそうでない生徒がおり、小学校の証明を求められた(そして当然、出願書類としてその場にはそれを持参していなかった)生徒も含め、すったもんだの末、出願は受理されたそうです。

(不幸中の幸いです)

 

(*2つ目のツイートで、『要項にも記載のなかった書類を急に求められ』と書きましたが、『小学校卒業証明が必要』との記載がなかった、という意味で、誤解を招く書き方だったかもしれません。この点お詫びします)

 

昨晩は引率したコーディネーターから詳しい様子を直接聞くことができなかったのですが、今朝、あらためて確認したところ、以下のような状況だったそうです。

 

2月4日に都立X高校定時制出願窓口で起きたこと(スタッフからのヒアリングに基づく)

当日、外国にルーツを持つ生徒6名を引率しスタッフが当該高校窓口へ。このX高校定時制には、当スクールから毎年5名前後が入学してきた関係の深い高校です。

 

日本の中学校に在籍している生徒2名は日本の公立中学校からの書類のみで問題なく受理。その後、9年間の教育課程を中国で終了し、中国の中学校卒業証明を持って出願した2名の中国籍の生徒(Aさん、Bさん)の書類が受理されました。

 

続いて先のAさん、Bさんの書類を確認した担当者とは別の担当者に出願しようとしたフィリピンにルーツを持つ日本国籍の生徒(Cさん)と中国籍の生徒(Dさん)が、Aさん、Bさんと同様に出身国の中学校卒業証明書類とともに出願しようとしたところ、これでは9年間を修了したことが証明できないので、小学校の卒業証明が必要だということを言われました。

 

都教委は確かに都立高等学校応募資格審査取扱要項( http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/p_gakko/28boshu/sankou4.pdf )という書面の中で、「外国において9年の課程が修了したことがわかる卒業証明書等」の提出を、外国で教育を受けてきた外国人に求めています。一方で、外国にルーツを持つ子どもたちの高校進学を支援して6年間。定時制高校出願時に小学校卒業証明を求められた生徒はこれまでに1人もいませんでしたし、今年も事前相談にX高校へ行った際に、Cさんはフィリピンの中学校卒業証明を学校側に提示し、「これで大丈夫です」との回答を得ていたところでした。

 

にも関わらず、出願当日になったて、たまたま書類を受け取った担当者の判断次第で「9年修了の卒業証明」に必要な書類の内容をその場で変えるという属人的な対応がなされた、という事態でした。

 

今回出願した生徒たちは、たまたま私たちの現場のスタッフが付添い、「それはおかしい、同じ書類でAさん、Bさんはすでに受理されている」と抗議したことで出願受理となりましたが、これがもし外国にルーツを持つ生徒と外国人保護者のみでの出願時であったら、その生徒は出願を無理だとあきらめてしまうことになりかねません。(日本以外の国から学校関係の証明書を取り寄せるとなると、国によっては長い時間を要する場合があり、今日、明日で準備できるものではありません)

 

「9年の教育課程を修了した証明」に中学卒業証明では不十分とはこれいかに。

この一言につきます。

ちなみに、全日制高校を受験する中国籍の生徒が、中国の小学校の卒業証明を求められた経験はあります。この時は少なくとも出願の前にはそのことがあきらかになっていました(国によって対応を変えるのもおかしな話ですが)。ただ、周辺の定時制高校にあっては、今回初めてのケースであり、また、X高での事前相談時には中学卒業証明で十分であることが確認されたうえでの事態です。

 

東京都教育委員会は、「9年修了の卒業証明書」の定義についてあらためて見直す必要があるのではないでしょうか。

万が一、今後も「どこの国で教育を受けてきたか」で提出する書類が変わるのであれば、事前に、その国の方々が理解できる言語で、そのことをはっきり明記すべきですし、ましてやその対応が、同じ学校内において担当者1人の判断でイエスにも、ノーにもなることがないよう、適切な入試システムの運用を切にお願いしたいところです。

 

外国にルーツを持つ若者の高校進学率は、大阪や三重など、こうした子どもたちに対して「人権」の観点から対応を行っている自治体では90%をゆうに超えているにも関わらず、東京都ではいまだに60~70%程度であると推測される後進ぶりです。

 

これがグローバル化にまっさきに対応せんとする”国際都市TOKYO”のあるべき姿であるとは思えません。今回の件は、X高校の窓口のご担当者1人の判断によって、外国にルーツを持つ生徒の人生を大きく左右する可能性があったことや、蛇足ですが、2020年のオリンピックで大活躍するかもしれない「バイリンガル都民」の卵を潰してしまうかもしれなかった対応であったこと、東京都教育委員会の方々にはぜひご認識をいただければと思います。