NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/ 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援事業運営を担当。Yahoo!ニュース個人オーサー。2児の母。

『意図せず、外国人に大量のワサビを盛る国、日本』はイヤだ。

本当の悪意を自認して差別している人間はそう多くない。

大阪にあるチェーンの寿司店で韓国や中国から来た方々を中心に、わざと大量のワサビを入れた寿司を提供していた件。最初はネタなのかと思っていましたが、店側が「謝罪文」を掲載する事態となり、新聞でも報道され、実際に起きた事実であったことがわかりました。

店側は「差別的な意図は全くない」と否定していますが、意図的か意図的でないかは免罪符にはなるでしょうか。

 

いじめる側や差別をする側、他者を傷つける側の人間が、本当の悪意を自認してそれを実行している、ということは子どもから大人まで、そう多くはないのではないかと感じます。

「意図していなかった」「軽い気持ちだった」「冗談のつもりだった」「そこまで傷つくとは思っていなかった」

加害者側の言い訳としてよく並ぶ文言です。

 

おそらく、全員ではないものの、少なくない数の「加害者」が、本気で「軽い気持ちだった」と思いながらいじめや差別を行っているのではないでしょうか。

 

 

「意図しない差別・いやがらせ」、身近にも。

当然のことながら、被害者側はそうは思いません。「差別的な意図なく大量のワサビを外国人だけに盛る」という行為が招いた結果は、海を越えて日本という国のイメージを損なうものとなりました。

 

今回はワサビテロとも言われている事態が、インターネットを通じて明るみに出ましたが、こうした「意図しない差別・いやがらせ」は大なり小なり日常茶飯事に起きているのではないかと感じています。

 

最近外国人アルバイトが増えたコンビニや牛丼チェーンなど。そこで働くアジア系の留学生の若者に、横柄な態度をとる客の姿を、見たことはありませんか?(私はあります。”偶然”にも、何度も) 


「ハーフタレント」や外国にルーツを持つ芸能人の方々がこぞって過去の「いじめ」体験を語る、その内容がどのタレントさんのものも似通っており「あるある」だな、と思ったことはありませんか?(肌や目の色の違いを気持ち悪いと言われる/国に帰れと言われる、など)

 

それは加害者側や一般の方々にとっては「偶然」かもしれません。「たまたま」起きたできごとなのかもしれません。

 

しかし、被害を受けた側とっては忘れることのできない出来事として、胸に刻まれます。「ハーフタレント」の方々の相次ぐカミングアウトは、被害を受けた側の心の傷の大きさを端的に証明しているようです。

 

私たちの身近には「悪気のない」「意図しない」「軽い気持ち」の差別があふれています。私が支援する外国にルーツを持つ子どもたちも、いじめや差別の経験を語る子どもは少なくありません。

 

インターネット上では、「日本は島国で、歴史的地理的経緯上、”そういう”文化や気質があるので・・・」というエクスキューズを見ることがありますが、だからと言って「意図しない」行為の免罪符になるとは思えません。

 

今、メディアでは「外国人が驚く日本」「日本大好き外国人」など、何かのプロパガンダかと思えるような番組が連日のように放送されています。まるで「日本人は地理的・歴史的・文化的・精神的に特殊である」ことを強調するかのように。

 

しかし、果たして日本はそれほど特殊な国なのでしょうか?私たちは特別な存在なのでしょうか?だから、「意図せず、外国人に大量のワサビを盛る」というようなことをするのでしょうか?しても、許されるのでしょうか?

 

この国の「閉鎖性」については否定しません。そうしたものを育みやすい社会的な特徴があるかもしれないことも、理解できます。しかし、そろそろ私たちはその「特別な国日本」を過去のものとする必要があるのではないでしょうか。

 

ワサビのツケを日本社会全体で負うことになる時代

 

「日本のある地域の小さな店の店員」の起こしたワサビの一件、20年前であればこれほど世間を騒がすことはなかったかもしれません。嫌な思いをした外国人のお客さんが、身近な友人や知人にその思い出を苦々しく語る程度で、あくまでも「運が悪かった」ということで収束したのかもしれません。

 

きっと、ガイドブックにも「この店はワサビを盛りすぎるので注意」などというネガティブな情報が活字として掲載されることはなかったでしょうし、その影響は限定的だったかもしれません。

 

しかし今や情報発信の主体は個人となり、ポジティブな情報もネガティブな情報も、すぐさまインターネットを通して全世界に発信できる環境が整っています。ワサビ寿司も写真という決定的な証拠付きで、あっという間に(言語障壁を除き)誰もがアクセスできる情報として駆け巡りました。

 

そして悪いことに、こうした情報は、一語一句が記憶に残るとは限りません。

 

「日本のある地域の小さな店の店員」という主語は、情報がめぐるうちに「日本のある地域の店」となり、最終的には「日本の店」や「日本」「日本人」と単純化され、人々の記憶に定着することにもなりかねません。

 

「日本のレストランで外国人は大量のワサビを盛られる」

と聞いたら、どう思うでしょうか?

 

いっしょくたにしないでくれ、と思うかもしれません。しかし、インターネットが張り巡らされた現代に、そうはいかないリスクをすでに私たちは背負っています。改めて鎖国でもしない限りは、逃れられない現実です。

 

さらに、今は外国人観光客だけでなく、外国人労働者やその家族の受け入れが進みつつあり、「お客さん」や「地域住人」として、日本人だけのことを考えてビジネスやサービスを組み立てていては、対応が間に合わない局面も増えてきています。

 

インターネット上では悪い情報は光のようなスピードで駆け巡りますが、同時に、良い情報もしっかり発信され、蓄積され、誰もが自由に引き出すことができるのも特徴です。「特殊な国」として大切に育んできた文化や風土、ホスピタリティ。今、この時代にこそ積極的に外国人の方々に体験し、喜んでいただく事で、「日本の良いところ」を広げていくことができるのだろうと思います。

 

そろそろ「特殊な国ジャパン」は過去のものにして、新しい時代の日本に向かって歩んでいけたらいいな。

 

 

2016年度下半期YSCグローバル・スクールスタッフ募集(日本語教師/コーディネーター/学習支援/ICT担当)

「日本社会への入り口」となる大人たち

私たちが支援している外国にルーツを持つ子ども達の中には、日本で生まれ育った子ども、小さな頃に来日した子ども、10代に入って新たに来日した子どもなど様々な子ども達がいます。そのルーツもフィリピンや中国、ペルー、ネパール、バングラデシュやロシア、アメリカなど・・・年間100人前後の多様な子ども達と出会い、彼らが日本の社会の中で元気に過ごしていけるようにサポートしています。

 

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 子ども達にとって私たち「支援者」は、時に日本社会への窓口であり、外国生活で唯一気を許すことのできる心の居場所であったりします。

 

日本語がわからない

学校で「自分の国に帰れ」といじめられる

勉強についていけない

家庭環境が複雑で不安を抱えている・・・


子ども達が安心して(一時的に)過ごせる場は、この日本社会の中であまり多くありませんが、彼らの大半(スクール内統計では97%)が、今後も日本社会の中で成長し、就職し、家庭を持って暮らしていくことになる「日本社会の一員」です。

私たち支援者はこうした子ども達が自信を持って、日本社会の新たな力となり活躍する事ができるよう、その基盤を作っていくのが重要な役割だと認識しています。

 

専門性を持った3つのポジションから包括的にアプローチ

 YSCグローバル・スクールは、全国にある外国にルーツを持つ子ども達の支援機関の中でも珍しい、専門的支援を行うプロジェクトで、

 

多文化コーディネーター

日本語教師(有資格者)

学習支援担当者

 

のそれぞれの専門性を持ったスタッフが、現場での日本語教育・学習支援に留まらず子ども達を取り巻く諸課題に対して連携し、包括的にアプローチを行っています。

 

また、彼らの学習面だけでなく自立を見据えたキャリア教育、就労支援を始めとして、今年度からは外国人散在地域に暮らす子ども達のためのICTを活用した遠隔地日本語教育支援事業の立ち上げなど、新たな領域にも積極的な挑戦を続けています。

(次年度には、発達に課題を有する子ども達の福祉的支援事業にも着手予定です)

 

こうしたベンチャー的な風土の中で、自らの専門性を生かして外国にルーツを持つ子ども達を支えたい・・・そんな気概のある方と、多様性が豊かさとなる未来を目指して共に歩んで行きたいと思っています。

 

新規事業担当者も含め、各職募集中!

 

今回は、ICT教育コーディネーターという新たなポジションも含めた採用を予定しています。いずれも、長期間の勤務ができる方を歓迎しています。

 

1)多文化コーディネーター(未経験可/契約社員

2)多文化ICT教育コーディネーター(未経験可)
3)日本語教師(有資格者、経験2年以上/契約社員orパートタイム)
4)日本語教師アシスタント(有資格者、未経験可)
5)学習支援担当(理科・数学担当/4年制大学生以上)
6)学習支援担当(英語・社会担当/4年制大学生以上)


勤務日時:月曜日~金曜日、午前9時~午後7時
*ポジションにより週2回~5回まで異なります

待遇:資格・経験等により1,000円~2,400円+交通費全額支給、保険完備

   契約社員は月給200,000円~

勤務地:NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部
    YSCグローバル・スクール
    東京都福生市本町117-1スプリングバレー福生201
   (JR青梅線福生駅下車、徒歩2分)

<各職求人詳細はこちらをご確認ください>

http://www.kodomo-nihongo.com/

 

<参考:YSCグローバル・スクールFacebookページ>

https://www.facebook.com/kodomo.nihongo/

 

<参考:YSCグローバル・スクール発行メールマガジン

グローバルキッズ&ユースマガジン

海外からでも使える!自宅学習に最適な子どもの日本語・継承語教育オススメ無料教材

海外に暮らす日本にルーツを持つ子ども達

海外に暮らす、日本人の子どもたちは外務省による「海外子女統計」によると、長期滞在の義務教育年齢の子どもだけで79,000人以上。10年前と比べ、2万人以上増加しています。

日本国籍を持たない、日本にルーツを持つ子ども達(両親のいずれかが日本人、日系人など)の存在なども合わせると、かなりの数に上るのではないかと見られます。

 

海外での生活が一時的であれば、いずれ帰国した際のことを念頭に、日本語の力を年齢相応に維持したり、学校の勉強についていけるように日本語で算数や国語、社会などの教科を学ぶ練習をするために、日本人学校や補習校に通わせたり、自宅で通信教材などを使って学習させることも多いのではないでしょうか。

 

また、原則として生活基盤が海外にある場合でも、一時帰国の際に祖父母などとのコミュニケーションが取れたり、将来の事を考えて、日本語を少しでも身につけて欲しいと考えている親御さんも少なくないのではないでしょうか。

 

一方で、帰国するつもりが当初はなく、積極的な日本語学習はさせてこなかったものの、離婚や日本の家族の病気など、様々な事情により日本での生活をすることになったケースや、これまで意識してこなかったけれど、子ども達の成長に伴って「やはり日本語を話せるようになって欲しい」と思い直すようなケースも。

 

自宅だけで日本語を教えるのは大変!

私たちのスクールでも、海外からの「一時帰国」の際に少しでも日本語をという親御さんの希望があり、短期間限定で、日本にルーツを持つ子ども達を受け入れることがあります。

 

こうした海外で生活をしている日本人の親御さんからよくうかがうのは・・・「自分で教えるのが難しい(時間もノウハウもない)」ということと「子ども自身が日本語学習へのモチベーションを持てない」というお悩みです。

 

確かに家庭の外は全て外国語、という海外の生活の中で、親御さんの努力だけで(モチベーションの持ちづらい)子どもの日本語の力を高めていく(あるいは維持していく)のは大変なことだと、その逆の生活を送っている、日本国内の海外にルーツを持つ子ども達の支援をしていて実感します。

 

そんな時に、インターネット上の無料教材の活用などをオススメしています。

 

「ひらがなプリント」と「学校で使う教科書」の狭間にある
子ども達が使いやすいオススメ教材3点

ひらがなのプリントや、低学年向けの簡単な学習教材などは検索するとたくさんヒットするのですが、この記事では・・・

 

1)年齢が高く「幼稚」に見える教材を使うことに抵抗がある

2)「難しい漢字や日本語の文章はわからないけれど、耳で聞けばなんとなく理解できる程度の日本語の力がある」ため、日本語を母語としない子どものための文法教材などはちょっと使いづらい

3)「日本への帰国などを念頭に、日本での教科の勉強をしたい/させたい」

 

場合などに適した無料教材をご紹介します。

 

<JYL Project 子どもの日本語ライブラリ>

www.kodomo-kotoba.info

こちらは外国にルーツを持つ子ども向けとなっていますが、小学生低学年向け/中学年向け/高学年向け/中学生向けと対象年齢ごとに、日本語や数学、理科など各教科に関する無料教材などが検索できる他、動画で専門的な指導方法を確認することができ、自宅で自らお子さんの学習をサポートするご家庭にとって、役に立つ内容がぎっしり詰まっています。

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(JYL Projectサイトでは、教材を使ってどのように支援したら良いのか、具体的なノウハウが動画で学べます)

 

NHK for School>

www.nhk.or.jp

 

自分が子どもの頃、NHK教育テレビの番組を学校で観たことがある方も多いかと思います。このサイトは、教育テレビで放送されている学校放送番組の動画を無料で視聴できるだけでなく、関連コンテンツ(クイズやオンラインで自習可能なワークなど)も豊富。

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(特に動画に関連した教材はビジュアルを中心にまとめられているので、難しい日本語がわからない場合も、理解しやすい作りになっています。)

 

特別支援教育のための教材>

特別支援教育のための教材というと、「ちょっと違うんじゃない?」と思われる方もおられるかもしれませんが、こちらのサイトでは、文字の理解が難しい子どものために、漢字のオリジナルプリント教材を作成できるデジタルコンテンツや、生活シュミレーションから数に関する力を育てるコンテンツなど・・・

 

集中力が続きづらかったり、言葉の理解に困難を抱える子ども達を対象に、ビジュアルをふんだんに使って作られている点が、日本語・継承語を学ぶ子ども達にもフィットしています。

とにかく「わかりやすく」「個別ニーズのかゆいところに手が届く」大量の教材がすべて無料で利用できる点で、活用しない手は無い!と言うくらいオススメのサイトです。

http://www.e-kokoro.ne.jp/ss/1/index.php

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海外にルーツを持つ子ども達にも、日本にルーツを持つ子ども達にも、楽しい学びを

日本に暮らす海外にルーツを持つ子ども達も、海外に暮らす日本にルーツを持つ子ども達にも、「学びたい」気持ちを育むこと。その気持ちを支えることができる教材や支援にアクセスできることが大切だなと感じています。

 

インターネット上には無料の使える教材やリソースがたくさん公開されています。使えるものはどんどん使って、子ども達の学びをサポートできるといいですね!

 

今、私たちのスクールでは、ITを活用して専門家による日本語教育を、ライブ配信する新しいプロジェクトに取り組んでいます。身近に日本語を教えてくれる人がいない日本に暮らす海外ルーツの子ども達だけでなく、海外に暮らしていて日本語・継承語学習を必要としている子ども達にも活用してもらえるのでは、と期待しています。

NICO|にほんご×子どもプロジェクト 詳細はこちらのリンクからどうぞ。

日本語で育つ子どもたちは、すべて日本の子どもであると言いたい

ウティナン君に想いを寄せて

 

山梨県に暮らす、タイにルーツを持つ、ウォン・ウティナン君のニュースをご存知でしょうか?

 

ウティナン君は日本生まれ・日本育ちですが、お母さんがビザが切れた状態で超過滞在だったため、在留資格のないまま各地を転々と隠れるように生活してきたそうです。

 

小学校に通うこともできず、山梨県が2011年に行った外国籍の子どもの不就学調査により発見され、その後、公立の中学校に編入しています。7年間の教育の空白期間があったにも関わらず、支援団体の支援を受けて学力を高め、高校進学も果たしています。

 

ウティナン君は、2013年に入国管理局に在留特別許可を申請しましたが、2014年に入管が言い渡したのは退去強制処分。その取り消しを求めていた訴訟で、東京地裁は6月30日に、ウティナン君側の請求を棄却する判決を出しました。

 

 

「日本で生まれたことが罪なのでしょうか?」

 

 

そのウティナン君が、昨年裁判官の方に宛てて書いた手紙の内容が、ふたたび話題になっています。

 

「・・・僕が生れたことは悪いことだったのでしょうか?僕は産んでくれたことを感謝しています。生んでもらって良かったし、友だちと楽しく、一生懸命生きていきたいと思っています。どうか僕のことを認めてほしいと思います。何も悪いことをしていないのに、なぜ罪があるように扱われるのでしょうか?僕が日本で生まれたことが罪なのでしょうか?僕は悔しいです。」

 

「・・・どうか在留を許可してください。僕たちを認めてください。僕はまだ子どもで力が足りません。やっと高校に入ったばかりで、これからますます勉強をしなければなりません。どうか力を貸してください。僕は、勉強を続け、立派な大人になって、真面目にしっかり働いて、僕のように困ってる人がいたら手助けできる人になりたいと思います。お願いします。」

 

(いずれも、2015年4月24日Huffington Post掲載記事より抜粋 「日本で生まれたことが罪なのでしょうか?」日本生まれ日本育ちのタイ人少年、在留許可を求める」 )

 

 

・・・現在、私たちの現場には在留資格を持たないお子さんは在籍していません。でも、ウティナン君のように日本で生まれ育ち、自分のルーツのある国に行ったこともなく、その国の言葉も文化もほとんどわからないという子どもは少なくありません。

 

「自分は外国人である」と考える子どもたちもいれば、「自分は見た目こそ違えど、日本人である」と考える子どもたちもいます。まだ自らのアイデンティティに悩んでいる子どもたちもいます。

 

でもこうした子どもたちの多くが、将来日本以外の国で暮らす、というイメージは持っていません。日本の中で高校に進学し、大学や専門学校などへ行き、就職をして、恋をして、結婚をして、子どもを育てて、親孝行をして・・・。

そんな将来像を描いています。

 

子どもたちと私たち(あるいは、私たちの子ども)とは、何か、違いがあるでしょうか?

 

 

日本人とはだれなんでしょうか

 

 

私自身も海外にルーツを持っていますが、「紙一重」の事柄が重なって、日本国籍の日本人として生まれました。その事実を知ったのは中学生になってからで、それまでは疑いようもなく、自分は「日本人」と言い切れましたが、それ以来は日本人とはだれなのかということをよく考えるようになりました。

 

その作業は、時にとても苦痛でしたが、ある時にふとこの苦痛の源泉は「日本人=単一民族」だと思い込んでいる、そういう価値観をどこからともなく刷り込まれている事なのだと考えるようになってから、気持ちが楽になったことを思い出しました。

 

今、「日本人」を定義するときに「血の純粋さ」が大切だというようなことを心の底から信じている人はどのくらいいるでしょうか?

 

先日、台湾にルーツを持つ作家、温又柔さんとお話をしたときに、温さんが冒頭から「そんなこと言ったら遣唐使の時代までさかのぼらなきゃ!」と満面の笑みでおっしゃっていました。

 

私たち日本と呼ばれる国に住んでいる人々の多様性は、昔々から存在していて、すでにいろいろなルーツを持っている人々の集合体が混ざり合って成立しているのが日本人なんだと、外国にルーツを持つ子どもたちの支援をしている今現在は、より強く感じています。

 

国家、と呼ばれる単位の枠組み自体が揺らいでいて、あちこちでそのひずみが明白になっている現在においては、もはや国籍で人を定義することや移動を制限すること自体に無理があるのかもしれません。

 

 

今、もし「帰りなさい」と言われたら・・・

 

 

先ほど、私は「紙一重」で日本国籍を持っている、と書きました。そんな立場もあって、ウティナン君のニュースを初めて耳にした時から、ある嫌な想像をするようになりました。

 

たとえばこの紙一重で持っている日本国籍が、ある日突然役に立たなくなって、「実の親または祖父母に外国出身者が含まれている者は日本人ではない」

みたいなルールの変更が突然起こったとしたら・・・

 

入管なりなんなりが私のところにやってきて、「あなたは外国出身者の子どもなので、そちらの国に帰ってください」と言われたら・・・そんなことは起こり得ないと思いながらも、でもそうなったらどうしよう?と考えを巡らせては、恐怖に身震いしたりします。

 

 

母なる国、日本に暮らす子どもたち

 

 

・・・多感な年齢でそんな事態に直面しなくてはならないウティナン君。同じように日本という国で生まれ、日本語で日本社会に育つ外国籍や無国籍の子どもたち。

 

その子どもたちの「母なる国」、日本。

 

少なくとも、言葉と社会を共有するこうした子どもたちを、私は、日本の子どもとしてとらえています。

 

日本で生まれ、日本語で育つ子どもは、すべて日本の子どもとして守り、育てる・・・その程度には人道的な国の「国民」でありたいと願っています。

 

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この記事は、Readyforにてクラウドファンディング中のプロジェクト「日本語がしゃべれず、ひとりぼっちの子どもにオンライン授業を!」新着情報記事から転載しています。

2016年参院選各党マニフェストに見る外国人・移民関連政策

参院選2016はこんな視点での比較も

東海地方に拠点を置く、多文化共生NPOの中間支援組織、NPO法人多文化共生リソースセンター東海さんが、7月10日に行われる参議院選挙に関連し、各政党が「移民」や「外国人」についてどう考えているのか、政策集の比較をしてくださったのでご紹介します。

 

多文化共生リソースセンター東海さんのブログエントリーより抜粋

「移民」「外国人」についての記載あり(*五十音順)


幸福実現党
移民受け入れに向けた制度設計を行います。(p.35)
・ 総枠での受け入れ数を定めるとともに、国籍別の受け入れ枠を設けることで、特定国への偏重や反日国からの移民を制限します。
・国籍取得時には日本国への忠誠を条件とするなど、日本国民としての自覚・誇りを持つよう促します。
政治や経済、文化など各分野で、世界を牽引し得る新たな日本モデルをつくり、さらなる発展を目指します。 (p.47)
少子化対策と併せて移民政策を進め、当面は人口1億5千万人を目標とし、将来的には3億人国家を目指します。

公明党
7 教育の充実と学校環境の整備促進 (p.11)
・学生がグローバルな環境で学べるよう、海外留学への経済的支援の拡充、大学の国際化への支援、留学生の受け入れ増加や留学生との交流を強力に推進します。
9 人権、性的マイノリティーの支援 (p.12)
急増する難民申請者問題に対応するため難民認定制度を適正化するとともに、認定難民及び人道的配慮等で保護された外国人への日本語支援等、公的支援を強 化します。
ヘイトスピーチなど、本邦の域外にある国または地 域の出身であることを理由として行われる不当な差別的言動を解消するため、人権教育及び人権啓発等の取り組みを強化します。

社会民主党
人権 (p.6)
・差別や敵意を煽る「ヘイトスピーチ」の根絶に向けて全力で取り組みます。

自由民主党
2020年東京オリンピックパラリンピック (p.18)
・2020年東京大会及び地方の観光地における外国人への対応に向けて、「言葉の壁」をなくす多言語音声翻訳の普及を図ります。
雇用と所得の拡大 (p.23)
労働力人口が減少し、現行制度でも外国人労働者の大幅な増加が見込まれる中で、日本人だけでは労働力が不足し社会に深刻な悪影響が生じる分野について、外国人労働者が適切に働ける制度を整備します。

新党改革
ヘイトスピーチ (p.14)
・特定の人種や民族を標的に差別をあおるヘイ トスピーチの解消のための対策法が6月3日に施行されました。
本邦外出身者の方々を侮辱し、日本で安心して生活することを阻むような言動を、社会として許してはいけません。罰則規定をどのように定めるかの議論を続けるとともに、ヘイ トスピーチに対する社会としての毅然とした態度を示していく必要があります。
海外留学の倍増、外国人留学生の受け入れ促進 (p.17)
・日本の若者の海外留学熱は一時に比べ大きく下がっています。2004 年に 8.3 万人だった日本人留学生の数は、2013 年には 6 万人に減っています。他方、海外に在留する邦人が年々増加の一途をたどっているように、世界との距離が近くなり、日本一国だけでは物事を考えられなくなっている時代に入っています。
・この社会の大きな流れに乗り遅れないため、日本の若者の海外留学生を倍増させるとともに、優秀な外国人留学生の受け入れを増やし、日本を内向きから外向きの国家に変えていくきっかけとします。
・海外の若者や他の方々が、インターネットで日本語の語学力を身につけてもらえるように、「サイバー N1(エヌワン)教育」なども検討していきます。

日本共産党
言論・表現の自由を守ります。ヘ イトスピーチを根絶します (p.15)
・民族差別をあおるヘイトスピーチを根絶し ます。超党派で成立させた「ヘイトスピーチ解消法」も活用して、政府が断固たる立場にたつことを求めます。
*ホームページに「48 ヘイトスピーチ」「49 在日外国人」について詳細記載あり

日本のこころを大切にする党
我が党は、日本各地で、国際文化交流の祭典を催し、日本が、世界の文化が輝き、溢れ、交流する場となることを目指す。
・日本各地で、国際文化交流の祭典を催し、地方創生に資する。
・文化による国際貢献、「世界の文化が輝き溢れ、交流する場」の実現

民進党
国民の自由と 人権を守る (p.19)
・多様な価値観と少数者の人権を尊重する社会をつくります。
・ヘイト・スピーチ対策法を発展させ、人種、民族、出身などを理由とした差別を禁止する法律をつくりま す。


特に記載見つからず(*五十音順)
◆おおさか維新の会
国民怒りの声
生活の党と山本太郎となかまたち
◆日本を元気にする会
 

 

<上記抜粋の元記事「参院選2016」はこちら>

http://blog.canpan.info/mrc-t/archive/425#BlogEntryExtend

 

元記事の方には、各政党名のところにリンクが貼られていて、政策集にジャンプすることができます。 

まとめ作業大変だったろうと思いますが、とても参考になりますね。感謝。

 

このエントリーの転載を、多文化共生リソースセンター東海の代表理事である土井佳彦さんにお願いしたところ、ご快諾いただきました。重ねて感謝。

 

すぐに解決!だけが手段じゃない

 

私は個人的には、投票行動前の政治参加に関連するアクセシビリティを高めたほうが良いと思っていて、そういう意味で、政策集なども「やさしい日本語訳」などがあると、子どもの有権者教育にもなるし、日本語を母語としない有権者や識字の力が十分でない方々への情報提供機会を広げることにもなるかな、と思っています。

 

たとえば、今回私がざっと見た限りでは、公明党だけが、(おそらく)子ども向けのマニフェストを別に作成していて、文字も大きく、やさしい日本語の表現で、ルビも振ってあってわかりやすいんです。

www.komei.or.jp

(だからと言って、公明党を推したり、その他の政党を批判しているわけではありません)

 

こういう方向性で、身近にできることからすぐに取り組めたらいいなーという話しを土井さんにしたときに、彼が言ったのは

「翻訳とかってゆー“手段”の前に、有権者には日本語が読めない人や読みづらい人(ディスクレシア等)もいるんだってことの認識が大事ですよね。数を問題にせず、民主主義の中で権利が守られてない人の存在を世に問いたい」

(土井さんとのメッセージのやり取りから抜粋)

 という事でした。

 

彼のスタンスは、

「たしかにソリューション大事なんですが、この手の話題の場合、ソリューションの是非・可否に注目されるのはヤなんですよね。そこじゃないだろ、って思っちゃう。むしろ、課題を共有・共感してもらって、じゃあどーしたらいーの?ってのは各自に考えてほしい」

(同上)

というもので、すぐになんでもかんでも(?)解決したがる私とは異なり、じっくり民主主義を育てていきたいんだな、という想いが伝わってきました。

 

どの候補や政党を選ぶか、ということに目が行きがちですが、どのような選挙にするのか、を考えることも、私たち主権者の重要な役割で、特に権利を行使できない状況にある方々、権利自体を有さない外国籍の方々、子どもたちなど、彼らの存在を票を投じることができる有権者のひとりとしてどのように、自らの一票に託していくか。

 

そんなことも、長期・短期のいずれの視点でも考えていきたいな、と思っています。

 

「みんなにやさしい選挙」について、みなさんと考えるきっかけになれば、と、Yahooニュースで記事を公開しました。よろしければ、こちらもぜひ。

bylines.news.yahoo.co.jp