外国人と日本語で話せる!-広がっています「やさしい日本語」
<「やさしい日本語」という言葉を聞いたことはありますか?>
「だいじょうぶ?どうしたの?」など「優しい」言葉をかけること、ではありません。この”やさしい”は「平易(簡単)な」という方の易しいで、日本語があまり上手ではない方々でも災害時などに必要な情報が得られるよう、阪神淡路大震災時の経験を元に考え出されたものです。
東日本大震災の際には、「避難」や「高台」と言った日常ではあまり使われない日本語が防災無線から流れてきたけれど、外国人の方には理解が難しく、避難が遅れ亡くなられた方もおられたそうです。
このような経験から、この「やさしい日本語」という考え方が防災を中心に、急速に広がり始め、今では行政を中心に日本語を母語としない外国人の方々に情報を伝える手段として積極的に採用され始めています。
海外にルーツを持つ子どもたちを支援しているというと、よく
「じゃあ職員はみんな外国語がペラペラなんだ」
と言われますが、そんなことはありません。中には海外にルーツを持つスタッフや外国に住んでいた経験のあるスタッフもいますが、日本語しかできないというスタッフも活躍しています。また、現場の中では基本的によほどでない限りは外国語ができる職員も、生徒や外国人保護者とのコミュニケーションにはこのやさしい日本語を使用しています。
例えば・・・
「明日は午前授業になるので、給食と午後の授業はありません。午前中で帰宅になるので保護者に忘れずに伝えるように」
となる会話は
「明日、8時45分から12時20分まで勉強します」
「1時15分から勉強しません。家に帰ります」
「給食はありません」
「お父さん と お母さん に 言ってください」
と、
★日本語初級の外国人とは「~ます」を会話の基本に
★簡単な単語を選んで話す
★時間や日付けは、具体的な数字で伝える
などの工夫でぐっと伝わりやすくなります。
これまで、6年間、海外にルーツを持つ子どもやその保護者をサポートしてきた経験からも、意外とやさしい日本語で日常的なやりとりは十分なんだな、と実感しています。
(写真:現場でのコミュニケーションの基本はやさしい日本語)
<なぜ「やさしい日本語」が必要なのか?>
昨日、東京都清瀬市で活動する清瀬国際交流協会が主催されたやさしい日本語の講座にお邪魔してきました。そこで、講師を務めておられたNPO法人多文化共生リソースセンター東海代表理事の土井佳彦さんが、各国の言語学習制度を一覧にした表(下図)を配布されていました。
(出典:自治体国際化フォーラム - CLAIR(クレア)一般財団法人自治体国際化協会 )
ご覧になってすぐにお気づきかと思いますが、日本には公的に日本語を学習する制度はなく、民間や企業、ボランティアが日本語を母語としない方々への言語教育を担う主体となっています。一方、ドイツやフランス、カナダなど、移民を積極的に受け入れている国では言語学習の責任は国家が担っていて、数百時間の教育をほぼ無料で受けることができます。
「日本にいる外国人は移民じゃないから、国が面倒見る責任はない」
と考える方もおられるかもしれませんが、現在、日本に生活している外国人のうち50%以上が永住、定住が可能な資格を持っていますし、ここに日本人と国際結婚した方やその家族を加えると、60%をゆうに超える方々がこれまでも、これからも、日本でずーっと暮らしていく日本社会の仲間、なのです。
その仲間である外国人の方々に、今は公的に日本語教育は保障されていない。
自治体や地域住民が取り組むかどうかで、日本語ができない方々の「暮らしやすさ」や災害時の安全確保に格差が出ている現状です。
一方、私たち日本人側も、最近はオリンピックの関係か英語学習があちこちで推進されてはいるものの、多くの日本人の方々が急に外国語を話せるようになる、ということは実際には難しいのではないかと思っています。
そんなジレンマに一筋の光を射したのが「やさしい日本語」です。
これなら、
「日本語の会話が少しできます(難しい言葉は知らないヨ)」という外国人の方と、
「英語!?No! No!」という日本人の方がコミュニケーションできる!
画期的な、そしてコストゼロのアイディアなのです。
<やさしい日本語でOMOTENASHIも!>
これから日本では、海外にルーツを持つ生活者の方が増加することが見込まれています。同時に、日本に観光へ訪れる方々も増えていくでしょう。そんな時、この「やさしい日本語」が、自治体の職員の方々にとっても、サービス業で外国人観光客を受け入れるお店の方々にとっても、言葉の壁を下げると同時に、顧客(日本語を母語としない人)満足度を高めることにもつながるはずです。
「やさしい日本語」について詳しく学びたい方は、弘前大学の人文学部社会言語学研究所のページより、マニュアルがダウンロード可能です。
http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/EJ3mokuji.htm
そしてなんと、外国人の方々が多く住み、様々な支援の先進地域である愛知県では、やさしい日本語のスマホアプリまで作成しているんですね!
*iphone用
*アンドロイド用
やさしい日本語 - Google Play の Android アプリ
ちなみにこのアプリの作成者は、昨日の講座の講師である土井佳彦さんです。まさに『やさしい日本語の伝道師』ですね。
<ひとつだけ、考えておきたいこと>
「やさしい日本語」は、とても便利なツールで、今後行政を中心にますます広まってゆくことが予想されます。一方で、このやさしい日本語を理解するためには、おおむね、1,500個の日本語のことば(語彙)と、300の漢字とが必要で、そのレベルに到達するまで300時間くらいは日本語教育を受ける必要があります。
ボランティアによる活動も各地で行われてはいるものの、先にご紹介したとおり、日本在住外国人の6割以上が定住・永住が可能であることを考えれば、フランスやカナダなどの事例に倣い、最低限、「やさしい日本語が理解できるまでの日本語教育」は、日本の政府が責任を持って行っていくべきではないでしょうか。