NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/ 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援事業運営を担当。Yahoo!ニュース個人オーサー。2児の母。

日本語が話せない児童生徒が増加。国が対策へ

国が対策に乗り出した!?

www.fnn-news.com

 

一昨日のFNN-NEWSの動画が流れてきました。ニュースの切り口やいくつかの点に若干の疑問は残るものの、最近、こうした外国にルーツを持つ子ども関連のニュースを目にすることが増えたなと思います。時期的なものですね。

 

さて、学校における外国にルーツを持つ子どもと言えば、去る2015年11月5日、文部科学省において学校で外国人児童生徒の教育をどう支えていくかを考える有識者会議が開催され、議事録と関連資料が公開されました。

学校における外国人児童生徒等に対する教育支援に関する有識者会議(平成27年11月5日~)(第1回) 議事録:文部科学省

 

この会議は、以下のような日本語を母語としない子どもたちの課題について検討することを目的に開催されたものです。

 

1.学校における外国人児童生徒等に対する日本語指導体制の整備・充実

(検討課題例)
・散在・集住地域などの多様なニーズに応じた「拠点校」の整備の在り方
・拠点校を中心とした広域連携、幼・小・中・高連携、社会教育関連部署・NPO・企業等との連携等のネットワーク構築の在り方

2.日本語指導に携わる教員・支援員等の養成・確保

(検討課題例)
・日本語指導に必要な教員、支援員、母語による支援員等役割及び配置の在り方
・日本語指導に関する教員・支援員の専門性向上のための方策(養成、研修等の在り方)

3.日本語指導における指導内容の改善・充実

(検討課題例)
・学校教育におけるJSL(第2言語としての日本語)カリキュラム及び外国人児童生徒のためのDLA(対話型アセスメント)の普及・促進方策
・「特別の教育課程」の導入を踏まえた今後の指導の在り方
・日本語指導のための教材の在り方

4.外国人の子供の就学の促進及び進学・就職への対応

(検討課題例)
・就学前段階からのきめ細かな就学相談の在り方
・外国人児童生徒等の保護者への対応に関するサポート体制の在り方
・学齢超過者の就学希望への対応の在り方
・外国人生徒の高校進学の促進方策(外国人生徒等への「特別枠」等)
・外国人生徒の就学促進や就学支援にあたっての企業等との連携の在り方

これまで日本語を母語としない子どもたちに関わる研究者や現場の支援者が声を上げてきた課題の大枠がある程度列挙されていて、この1つ1つの課題にどう対応していくのかが方向付けられていくのだとしたら、外国にルーツを持つ子どもたちの教育は大きな一歩を踏み出すこととなりそうです。

議事録ではさらに現場の状況を踏まえた細やかな議論が展開され、「あるある。そうそう」とうなずくことも多くありました。

 

どうして公教育で「外国人の子」に日本語を学ばせるのか?

 


FNNのニュースのタイトルにも、有識者会議で文科省から提出された資料にもありましたが、日本語指導が必要な児童生徒は10年前と比較して1割以上増えているんです。

日本語がわからない子どもたちが、そのまま学級内で「放置」のような状況になってしまっている学校も少なくなく、何とかしてあげたいけれどどうしたらいいかわからない・・・と困っている先生方もたくさんおられます。

日本語がぜんぜんわからない子どもは、日本の学校で苦労しそうだ

ということは比較的想像がつきやすいのではないでしょうか。
もし自分が子どもで、いきなりアラビア語圏の学校に転向することになったら・・・など、と想像するだけでも苦労の大きさがわかります。

 

f:id:ikitanaka:20151225111416p:plain【資料3-1】外国人児童生徒等に対する教育支援に関する基礎資料  (PDF:1325KB) より)PDF

 

では、なぜこうした子どもたちに公教育内で日本語を教える必要があるのでしょうか?

「外国人が勝手に連れてきた子どもを、どうして我々の税金で面倒見なくちゃいけないんだ!」

というお決まりのつぶやきが聞こえてきそうですが、ここ数年のトレンドとして顕著に増加しているのは、日本国籍を持つ「日本人の子ども」で、日本語指導が必要な児童生徒です。そして、たとえ外国籍であったとしても、「子どもの権利条約」に定められている通り、その学びは保障されなくてはなりません。

ユニセフのサイトに、子どもの権利条約について子ども向けにわかりやすく解説されていたページがありましたのでご紹介とリンクを貼っておきます。

 

第28条
教育を受ける権利

[image]子どもには教育を受ける権利があります。国はすべての子どもが小学校に行けるようにしなければなりません。さらに上の学校に進みたいときには、みんなにそのチャンスが与えられなければなりません。学校のきまりは、人はだれでも人間として大切にされるという考え方からはずれるものであってはなりません。

第29条
教育の目的

[image]教育は、子どもが自分のもっているよいところをどんどんのばしていくためのものです。教育によって、子どもが自分も他の人もみんな同じように大切にされるということや、みんなとなかよくすること、みんなの生きている地球の自然の大切さなどを学べるようにしなければなりません。

第30条
少数民族・先住民の子ども

[image]少数民族の子どもや、もとからその土地に住んでいる人びとの子どもが、その民族の文化や宗教、ことばをもつ権利を、大切にしなければなりません。

 

 

UNICEF「子どもと先生の広場」―子どもの権利条約ページより

 

 

そして近年の傾向は「デカセギからテイジュウへ」。外国にルーツを持つ方々の日本での定住志向は高まっています。下図の日本に暮らす外国人の在留資格内訳を見れば明らかな通り、永住者、特別永住者、定住者だけで56%を超えています。文字通り、永住・定住が可能な資格です。

 

f:id:ikitanaka:20151225112600p:plain

 

このブログでもしつこいくらいにお伝えしていますが、もはや、彼らは日本社会の一員であり、事実上の移民です。

 

そしてその子どもたちは日本で学び、自立し、日本社会へ巣立ってゆく。日本の未来を担う子どもたちです。こうした子どもたちに対し、日本語教育を提供しないまま放置した結果発生する状況は、当然のことながら日本社会が負う事になります。逆に、母語保持や日本語教育をしっかり支えていくことで、彼らはバイリンガル・バイカルチャーのポテンシャルを発揮し、新しい風をもたらします。


公教育内で日本語を母語としない子どもたちの日本語教育を、国家が責任を持って実施していくことは、日本社会の未来をより豊かにする社会的に重要な投資であり、日本人の子どもたちと同様に、大切にはぐくまれるべき存在です。

 

まずは何よりも、現状からの脱却を。

 

さて、話しは戻って有識者会議の議事録を拝見して、いくつかポイントを上げておきたいと思います。

  • 自治体にとって全体として取り組むべき課題であることに言及した一方で、ルーツの多様化や、散在と集住と言う両極の方向性が同時に強まっている等の環境変化で、各自治体での対応が難しくなってきていることを指摘し、現存する施策では不十分であることを認めていること。

    →できれば「全自治体の課題」ではなく「国の課題」としてもらいたかったところですが・・・
    →「外国人児童生徒の教育」に関わる課題に全体として対応すべき、という前提で文科省の方から言及があったのは姿勢の変化を感じました。

 

  • 現場を知る委員の方々が、いわゆる集住地域で活動されている方々で構成されていること

    →日本語指導が必要な児童生徒が在籍する学校は、その全体の過半数が、こうした児童生徒が1人しかいない、2人しかいない、という散在地域(さんざいちいき)の学校です。検討課題にも挙がっていますが、『多様なニーズに応じた「拠点校」の整備の在り方』を考えるために、散在地域で実際に活動し、対応されている支援者の方々の声も必要だろうと思います。(今後の会議に期待)

    →そして、散在地域に暮らす子どもたちの支援のあり方は「拠点校整備」以外の可能性も探っていくべき。テクノロジーを活用することで、技術的に解決し得る部分もありそう。

    いろいろな方向性を探っていかないと、結局は「拠点校まで保護者が送り迎えできないから日本語が学べない」と言った課題や、「担当者が各学校を巡回支援するので、週1回しか日本語が学べない」と言った課題などがでてきそうな予感がします。とにかく、現存の無支援地帯を1(いち)にすることが先決ですが。

    その他細かいこと、いろいろ挙げればキリがありませんが・・・「地域によりニーズが異なるので自治体でやるべき(なので、自治体が予算を組んで国は補助)」ではなく、大同小異、日本全体として子どもたちの学びをどう保障していくか、という大きな視点で一歩も二歩も、現状から歩き出してほしいと切に願います。

    (私もお呼びいただければ、いつでも現場の実態や数値をお届けします!)

 

*1

 

*1:2016年1月6日、子どもの権利条約に関する箇所を追記・修正しました。