NPO法人青少年自立援助センター/YSCグローバル・スクール/田中宝紀 (IKI TANAKA)

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター/ 東京都福生市にて外国にルーツを持つ子どもと若者のための教育・自立就労支援事業運営を担当。Yahoo!ニュース個人オーサー。2児の母。

これだけは知ってほしい-海外にルーツをもつ子ども支援の基本の基(き)

以前、NHKで放送されている「おはよう日本」というニュース番組にて、今年の2月まで実施していた文部科学省定住外国人の子どもの就学支援事業」(通称:虹の架け橋教室)の終了に関連して、私の現場で学んでいたネパール人の女の子の様子が放送されました。

番組の動画は残念ながらすでに公開終了となっているのですが、写真とスクリプトがまだホームページに公開されています。(2015年4月17日放送「どう支える 子どもの”日本語支援”」)

その中で、ネパール人の女の子が暮らす自治体の教育委員会担当者が登場します。


ラビナさんが暮らしている昭島市
問題は、学校で日本語指導ができる人材の確保だといいます。

これまで、人材バンクで指導のできる人を集めましたが、話せる言語は英語や中国語など。
毎年10人ほどの支援対象者の中には、ネパール語のように対応できない言語も多いと言います。

昭島市 教育委員会は「日本語指導員をつけるのに時間がかかったり、探しきれなかったりというところがあり、自分のところでというのは、現状としては厳しい」といいます。
(「どう支える 子どもの”日本語支援”」より引用)


この昭島市教育委員会の方の発言は、実は1つ、外国につながる子ども支援関係者の間で波紋を広げました。

なぜでしょう?

それは、この発言ではまるで子どもの母語(この場合はネパール語)が話せる人でないと、支援ができないような印象を受けるからです。


でも本当はそうではありません。

このこと(母語が話せなくても日本語教育を含め、支援可能である)は私達外国につながる子ども支援関係者であれば、かなり知られている『常識』です。

例えばもしこのOAを見たどこかの教育関係者の方が、

「そうか、外国につながる子どもに日本語を教えるためには、その子の母語を話せる人を探さないといけないのか・・・」

と意気消沈し、こうした子ども達を支えることが「困難」と判断してしまったら大変なことだよね、という事を関係者はきっと、即座に思ったのではないでしょうか。

でもその『常識』は、一般にはあまりよく知られていません。残念ながら。
ただ一方で、私達支援者側も私達の中で「常識」となっている数々の事を、広めてゆく努力を十分にしてきたか、と言ったら、少なくとも私自身は「不十分であった」と言わざるを得ないところです。この点については本当に深く反省しています。

そこで、厚かましくも「外国につながる子ども支援基本の基(き)」なるものを作成してみました。
できればこの位の知識を、外国につながる子どもと出会ったことがない方々にとっても「常識」とすることができたら、という思いを込めて。


~これだけは知っていてほしい~
【外国につながる子ども支援基本の基(き)5つ】

1)日本語は日本語のみで指導可能。
2)日本語が聞くだけで上達できるのは概ね10才くらいまで。
3)日本語ペラペラまで2年、勉強スラスラまで7年。
4)日本語指導が必要な、日本国籍を持つ子どもが増えている。
5)母語の発達が様々な点で重要だ。


その1)日本語指導は日本語のみで可能

日本語教師は、直接法と言う日本語のみで日本語を指導する技術があり、子どもの母語が話せなくても、十分に指導が可能な専門家です。

→子どもの母語が話せると言うだけでは適切な日本語指導はできません。


2)日本語が聞くだけで上達できるのは概ね10才くらいまで。

→諸説ありますが、だいたい母語と同じように自然と言葉が習得できるのは概ね9歳から10歳くらいまで。

→その後は、外国語として学習しないと適切な言語発達が阻害される可能性が高い

でも、現場には小学校低学年以前に来日してなんの支援もなく放置された結果、日本語も母語も年齢相応に発達しなかった子どもと出会う事が少なくありません。適切な対応と支援が急務です。


3)日本語ペラペラまで2年、勉強スラスラまで7年。

→日常会話に必要な「生活言語」習得まで1~2年/教科学習や思考に必要な「学習言語」習得まで5~7年必要です。

→日本語の会話がペラペラなのに、勉強ができない子どもは、後者の学習言語が未発達な状態と言えます。


例えば小学4年生(10才)で来日したとして、生活言語獲得時(2年なら)に小6、教科学習に必要な学習言語獲得時に(7年かかれば)は19才。その間の基礎教育内容がほとんど習得できないに等しい状態に陥っていて、特に高校進学時に大きな影響が発生してしまうことに。

4)日本語指導が必要な、日本国籍を持つ子どもが増えている。

→公立小~高、特支学校に在籍する日本語指導が必要な児童生徒は約37,000人。 内、外国籍は減少傾向ですが、一方、日本国籍の児童生徒はこの5年で約2,000人増加しています。

現場でも、日本国籍の子ども(二重国籍もいますが、日本国籍のみ、の子どもが多数)は3割近くにのぼります。

文科省が行っている日本語指導が必要な児童生徒調査については、http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/nihongo/1266536.htmからどうぞ。


5)母語の発達が様々な点で重要だ。

諸条件ありますが、現場で出会う限り母語が未発達のまま成長したり、母語喪失の状態に陥った場合のリスクがとても大きく、危険であることを実感しています。

・抽象的な思考や概念が獲得できなくなる
・外国人保護者と「深い」会話ができなくなる
・文章の読み書きができなくなる(特に漢字…実感値として)

この3点に集約しましたが、例えばお母さんやお父さんとの間に共通言語がない状況を考えると、1人の親として胸が痛みます。

また、現場で出会った子ども(日本生まれ、日本育ちの外国につながる子どもで日本語しか話せません)は「駅名が読めない」くらいの読み書きのハンデをひきずって生活しています。


この5つのことが、たくさんの方々にとって「あ、なんとなく知ってる/聞いたことある」という状況を作るまで、あの手この手でがんばろうと思う新年度の一日でした。


注)この「どう支える 子どもの”日本語支援”」は、4月21日(月)のNHK「首都圏ネットワーク」にて再構成され再度OAされました。
ディレクターの方の努力で、この昭島市教育委員会の誤解を生む可能性がある表現の部分はカットされ、再構成でより分かりやすく、適切なニュースに生まれ変わっていました。
この場をおかりして深く感謝。


ちなみに、この「おはよう日本」で取り上げられたネパール人のラビナちゃんは、以下のクラウドファンディング(オンライン寄付)より、教育バウチャーを発行させていただき、無事に日本語教育を継続できるようになりました。

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*この記事は、旧ブログ(

これだけは知っていてほしい-外国につながる子ども支援基本の基(き)5つ|NPO法人青少年自立援助センター/多文化子ども・若者日本語教室・田中宝紀-IKI TANAKA) エントリーを少し修正して掲載しています。