学校で日本語支援受けられていない外国にルーツを持つ子、7,000人
<7,000人の日本語を母語としない子ども、無支援状態>
去る12月1日、文部科学省にて外国人児童生徒の支援体制について議論する有識者会議が開かれました。
現在、文科省の調査によると、日本の公立学校(小、中、高、特別支援)に在籍する「日本語指導が必要な外国人(外国籍)児童生徒」は29,198人います。そして今回の一連の報道では言及がありませんでしたが、日本国籍を持つ、日本語指導が必要な児童生徒がさらに7,897人在籍しており、全体で約37,000人の子どもたちが日本語がほとんどできず、学校の勉強がわからない状態で通学しています。
(出典:文科省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成 26 年度)」の結果について」)
こうした子どもたちが公的に日本語教育支援を受けられるかどうかは、これまで自治体により大きな格差がありました。
そのことについては、ジャーナリストでNPO法人8bitnewsの代表である、堀潤さんの記事でも触れられています。
先日、前述の文科省の調査を再確認すると、現在日本語指導を受けられている子どもは 外国籍・日本国籍あわせて約30,000人で、つまり、7,000人もの子どもたちが、日本語の支援がまったくない状況で放置されていることになることがわかりました。
「日本語がわからず学校の勉強についてけない」という苦しい状況を打開するための機会すら提供されていない子どもが7,000人もいることに改めて驚きました。子どもたちが一言も周囲の言葉がわからない状況で、強い孤独に耐えながら学校に通っているのではないかと思うと、本当に胸が痛みます。
せめて学校外での支援が彼らに届いていることを祈るばかりです・・・。
<散在(さんざい)地域への対応が急務>
冒頭でご紹介した日経の記事にもあるように、対象児童生徒の少ない、いわゆる「外国人散在地域」で、どのように子どもの日本語教育を支えていくか、が課題です。
外国人散在(さんざい)地域については、以下の過去記事に詳しく書きましたが、日本語指導が必要な児童生徒が、地域に数名、ある学校に1人、2人しかいない、というような状況です。
文科省の調査でも、日本語指導が必要な児童生徒のうち、実に43%以上が、その学校にこうした子どもが1人しかおらず、こうした外国人散在地域では自治体が独自予算を確保し、指導が可能な人材を手配する、ということが困難であり、積年の課題となっています。
<外国人の多い地域では、先進的な体制整備が進んでいます>
日本語を母語としない子どもたちの日本語教育を公的に支援することについては、納税者が納得しないから(外国人住民も納税者なのですが)、と消極的な自治体もある中で、比較的外国人居住者が多い地域では先駆的な取り組みも拡大してきています。
先日、関係者が驚いた(喜んだ)ニュースをひとつご紹介します。
横浜市が、日本語を母語としない児童生徒向けのプレスクール(日本語の初期指導や日本の学校生活などについて学ぶプログラム)を開設することになり、そのために新しい建物を建設する、というものです。
1階には地域住民が利用できるコミュニティスペースがつくられ、その2階と3階にプレスクールが入ります。住民との交流もかねた、先駆的な取り組みです。
こうしてしっかり公的に日本語教育を自治体がサポートできるのは、外国にルーツを持つ住民の多い地域ならでは、の施策ですが、子どもの教育機会が済んでいる自治体によりこれほどまでに差が生まれてしまっている現状には本当に強い危機感を抱いています。
<散在地域の課題は広域連携とICTで一定の解決が可能>
エリアの広さにもよりますが、1つの自治体での単独支援が難しい場合は、拠点となる学校や施設を設置し、複数の市町村が共同で運営する広域対応を検討してはどうでしょうか。
公共の乗り物でアクセスしづらいエリアもあるかと思いますが、スクールバスを導入することでアクセスを確保し、子どもたちを各地から集めて集中的に日本語指導を行うことが効果・効率の面でも優れているのではないかと考えています。
私たちの現場にも、東京の西側全域、さらには隣接する埼玉県や神奈川県からも通所する生徒がいて、10を超える自治体から受け入れを行っています。
あるいは、テクノロジーを利用し、日本語教育をオンラインで受けられるようにするということも一考の価値があります。こちらは全国どこでもネット環境さえ整備されていれば受講が可能となりますし、コスト的にも最も安く運用できる可能性を秘めています。
広域対応も、ICTの活用も、いずれもメリット、デメリットがあると思いますが、何よりも肝心なことは、今日本語教育をまったく受けらていない子どもたちがいるという「0(ゼロ)」の状態を、一刻も早く「1(いち)」にすることです。
その一歩は、初期的には100%にはならないかもしれませんが、子どもたちが教育の権利を剥奪されているとも言える現状は、すぐにでも変えていかなくてはなりません。
Giving December―多様だからこそ、豊かな未来へ
こんにちは。田中です。
早いもので、もう12月。ついこの間まで「夏の終わり」くらいの気分でいたのですが、朝晩ぐっと冷え込むようになり、慌てて冬支度に入りました。
「あなたはどんな未来がほしいですか?」
さて、タイトルにあるように、昨日12月1日から「Giving December」というあらたな取り組みがスタートしました。
この取り組みは、
『一年の終わりに未来のことを考え、実現してほしい未来へ寄付を贈ろう!』
というコンセプトのもとに実施されるもので、個人的には、新たな日本のソーシャルムーブメントとして、今後の盛り上がりに大きな期待を寄せています。
特に今年は、日本国内では政治的に大きなうねりが起こり、社会の中で右と左のベクトルが以前よりはっきりと輪郭を現しはじめ、さらに経済格差による上下方向の分断もより一層深化しながら表面化してきたように思います。
「戦争」と「貧困」という2文字が妙にリアルな実感を伴って社会全体に押し寄せてくるような感覚を覚えた一年となりました。
小さな「希望」をつないで、多様性が力となる未来へ
一方で、私個人の身近な場所では、この仕事を始めてから最も大きな「希望」を手にした一年でもありました。それは、たくさんの方々から寄せられた【寄付と共感】が生み出した、あたたかく、力強い希望です。
ご存知の方もおられるかもしれませんが、今年度後半、私たちは初めてプロジェクト型のクラウドファンディングで、海外にルーツを持つ子どもたちに対する専門的日本語教育支援無償枠の創出に挑みました。
外国にルーツを持つ子どもに専門的日本語教育を無償で提供したい(田中宝紀) - READYFOR (レディーフォー)
未だ、その存在すら一般的にはあまり認知されていない子どもたちの、専門家による日本語教育というマイナーな課題にも関わらず、大きな関心・共感とたくさんのご寄付をお寄せいただき、18名分もの子どもたちの無償枠を創出することができました。また、このプロジェクトを通して、多文化共生社会の学びを考えるための自主グループが立ち上がるなど、予想を超えた広がりも生まれました。
このブログでもたびたびご紹介していますが、海外にルーツを持つ日本語を母語としない子どもたちにとって、適切な時期に、適切な言語教育を受けられるかどうかということが、彼らのその後の未来を大きく左右することになります。
その子どもたちが支援者の方々の想いに支えられて歩みだした未来は、彼らのような多様なルーツを持つ方々、多様なバックグラウンドを持つ方々が、社会の中で自分らしく生きる社会。そして、彼らを含む私たち1人1人の多様性こそが、社会の大きな資源の一つとなるような未来。
私たちの事業とは、そんな未来へのバトンを形にして、子どもたちへつないでゆくものなのだ、と、あらためて感じた一年でした。
2016年の海外にルーツを持つ子どもたちの教育に―Giving December!
現場にいて、年間100名以上の海外にルーツを持つ子どもや若者と出会うと、心から彼らの活躍する日本の未来に希望を感じます。そんな未来を目指して、これからも皆さんと共に、バトンをつないで行けたら、と思います。
現在、日本国内では海外にルーツを持つ子ども・若者に専門的な教育を行うことのできる機関は私の現場を含めてもあまり多くありませんが、東京の東側で活動する「NPO法人多文化共生センター東京」は、その数少ない専門支援機関の一つ。
主に、「学齢超過」と呼ばれる出身国で義務教育を修了してから来日し、国内で公立高校に進学を希望する15歳以上の若者を対象とした教育支援を行っています。
個人的には「東京の東=多文化共生センター東京/東京の西=YSCグローバル・スクール」と、勝手に『同志的感覚』を抱いて応援している団体です。
その多文化共生センター東京が、現在、私たちが挑戦したREADYFOR?にて、海外にルーツを持つ子どもたちのための教育支援の場存続のためのチャレンジを行っています。
すでに目標金額は達成していますが(祝!)、1人でも多くの子どもたちが未来へのバトンを手にすることができるよう、残りの期間で多くの方々の共感とご寄付が集まってくれたら、と願っています。
ちなみに、私たち青少年自立援助センターYSCグローバル・スクールでも、オンライン寄付受付窓口を開設しています!
外国にルーツを持つ子どもたちに、日本語を学ぶチャンスを。 | NPO活動を支援する | ファンドレイジングサイト JapanGiving(ジャパンギビング)
年末の大掃除で出た古本、中古CD・DVDが海外にルーツを持つ子どもの寄付に!
これだけは知ってほしい-海外にルーツをもつ子ども支援の基本の基(き)
以前、NHKで放送されている「おはよう日本」というニュース番組にて、今年の2月まで実施していた文部科学省「定住外国人の子どもの就学支援事業」(通称:虹の架け橋教室)の終了に関連して、私の現場で学んでいたネパール人の女の子の様子が放送されました。
番組の動画は残念ながらすでに公開終了となっているのですが、写真とスクリプトがまだホームページに公開されています。(2015年4月17日放送「どう支える 子どもの”日本語支援”」)
その中で、ネパール人の女の子が暮らす自治体の教育委員会担当者が登場します。
ラビナさんが暮らしている昭島市。
問題は、学校で日本語指導ができる人材の確保だといいます。
これまで、人材バンクで指導のできる人を集めましたが、話せる言語は英語や中国語など。
毎年10人ほどの支援対象者の中には、ネパール語のように対応できない言語も多いと言います。
昭島市 教育委員会は「日本語指導員をつけるのに時間がかかったり、探しきれなかったりというところがあり、自分のところでというのは、現状としては厳しい」といいます。
(「どう支える 子どもの”日本語支援”」より引用)
この昭島市教育委員会の方の発言は、実は1つ、外国につながる子ども支援関係者の間で波紋を広げました。
なぜでしょう?
それは、この発言ではまるで子どもの母語(この場合はネパール語)が話せる人でないと、支援ができないような印象を受けるからです。
でも本当はそうではありません。
このこと(母語が話せなくても日本語教育を含め、支援可能である)は私達外国につながる子ども支援関係者であれば、かなり知られている『常識』です。
例えばもしこのOAを見たどこかの教育関係者の方が、
「そうか、外国につながる子どもに日本語を教えるためには、その子の母語を話せる人を探さないといけないのか・・・」
と意気消沈し、こうした子ども達を支えることが「困難」と判断してしまったら大変なことだよね、という事を関係者はきっと、即座に思ったのではないでしょうか。
でもその『常識』は、一般にはあまりよく知られていません。残念ながら。
ただ一方で、私達支援者側も私達の中で「常識」となっている数々の事を、広めてゆく努力を十分にしてきたか、と言ったら、少なくとも私自身は「不十分であった」と言わざるを得ないところです。この点については本当に深く反省しています。
そこで、厚かましくも「外国につながる子ども支援基本の基(き)」なるものを作成してみました。
できればこの位の知識を、外国につながる子どもと出会ったことがない方々にとっても「常識」とすることができたら、という思いを込めて。
~これだけは知っていてほしい~
【外国につながる子ども支援基本の基(き)5つ】
1)日本語は日本語のみで指導可能。
2)日本語が聞くだけで上達できるのは概ね10才くらいまで。
3)日本語ペラペラまで2年、勉強スラスラまで7年。
4)日本語指導が必要な、日本国籍を持つ子どもが増えている。
5)母語の発達が様々な点で重要だ。
その1)日本語指導は日本語のみで可能
→日本語教師は、直接法と言う日本語のみで日本語を指導する技術があり、子どもの母語が話せなくても、十分に指導が可能な専門家です。
→子どもの母語が話せると言うだけでは適切な日本語指導はできません。
2)日本語が聞くだけで上達できるのは概ね10才くらいまで。
→諸説ありますが、だいたい母語と同じように自然と言葉が習得できるのは概ね9歳から10歳くらいまで。
→その後は、外国語として学習しないと適切な言語発達が阻害される可能性が高い
でも、現場には小学校低学年以前に来日してなんの支援もなく放置された結果、日本語も母語も年齢相応に発達しなかった子どもと出会う事が少なくありません。適切な対応と支援が急務です。
3)日本語ペラペラまで2年、勉強スラスラまで7年。
→日常会話に必要な「生活言語」習得まで1~2年/教科学習や思考に必要な「学習言語」習得まで5~7年必要です。
→日本語の会話がペラペラなのに、勉強ができない子どもは、後者の学習言語が未発達な状態と言えます。
例えば小学4年生(10才)で来日したとして、生活言語獲得時(2年なら)に小6、教科学習に必要な学習言語獲得時に(7年かかれば)は19才。その間の基礎教育内容がほとんど習得できないに等しい状態に陥っていて、特に高校進学時に大きな影響が発生してしまうことに。
4)日本語指導が必要な、日本国籍を持つ子どもが増えている。
→公立小~高、特支学校に在籍する日本語指導が必要な児童生徒は約37,000人。 内、外国籍は減少傾向ですが、一方、日本国籍の児童生徒はこの5年で約2,000人増加しています。
現場でも、日本国籍の子ども(二重国籍もいますが、日本国籍のみ、の子どもが多数)は3割近くにのぼります。
文科省が行っている日本語指導が必要な児童生徒調査については、http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/nihongo/1266536.htmからどうぞ。
5)母語の発達が様々な点で重要だ。
諸条件ありますが、現場で出会う限り母語が未発達のまま成長したり、母語喪失の状態に陥った場合のリスクがとても大きく、危険であることを実感しています。
・抽象的な思考や概念が獲得できなくなる
・外国人保護者と「深い」会話ができなくなる
・文章の読み書きができなくなる(特に漢字…実感値として)
この3点に集約しましたが、例えばお母さんやお父さんとの間に共通言語がない状況を考えると、1人の親として胸が痛みます。
また、現場で出会った子ども(日本生まれ、日本育ちの外国につながる子どもで日本語しか話せません)は「駅名が読めない」くらいの読み書きのハンデをひきずって生活しています。
この5つのことが、たくさんの方々にとって「あ、なんとなく知ってる/聞いたことある」という状況を作るまで、あの手この手でがんばろうと思う新年度の一日でした。
注)この「どう支える 子どもの”日本語支援”」は、4月21日(月)のNHK「首都圏ネットワーク」にて再構成され再度OAされました。
ディレクターの方の努力で、この昭島市教育委員会の誤解を生む可能性がある表現の部分はカットされ、再構成でより分かりやすく、適切なニュースに生まれ変わっていました。
この場をおかりして深く感謝。
ちなみに、この「おはよう日本」で取り上げられたネパール人のラビナちゃんは、以下のクラウドファンディング(オンライン寄付)より、教育バウチャーを発行させていただき、無事に日本語教育を継続できるようになりました。
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「外国人ひとり親家庭/困窮世帯の外国にルーツを持つ子ども達へ
”お名前入りバウチャー”で日本語教育機会拡大にご協力いただけるサポーター
大募集中!
クレジットカード決済が可能です
【JAPANGIVING】 http://japangiving.jp/p/1912
*この記事は、旧ブログ(
これだけは知っていてほしい-外国につながる子ども支援基本の基(き)5つ|NPO法人青少年自立援助センター/多文化子ども・若者日本語教室・田中宝紀-IKI TANAKA) エントリーを少し修正して掲載しています。
日本人だけじゃない。「マイナンバー」制度-日本語を母語としない方々への多言語説明資料
<もう、届きましたか?>
こんにちは。田中です。
みなさんのお手元に、もうマイナンバーは届きましたか?
私の家はまだで、来ないな~と思っていたら、こんな記事が。
をを!良かった。うちだけじゃなかったんだな、とちょっと安心しました。
<はじめて制度の影響を実感>
マイナンバー制度、あまりピンと来ていなかったのですが、今月の給与明細と共に、マイナンバーを職場に提出する「個人番号届出書」が配布され、初めて自分との接点が登場したところで、ああ、本当に始まったんだなと思った次第です。
「マイナンバー通知を受け取り拒否すれば制度廃止になる」、というようなツイートを何度か見かけましたが、職場から提出を求められて、「受け取り拒否したので番号提出できません」とは言えないな、と思いました。。。個人の弱さ、小ささ・・・。
ま、この制度の是非が十分に議論され尽くしての導入とは思えないのですが(今後、個人や生活のどこまでの範囲が制度に紐付けされるか、については議論を尽くすべき)、始まってしまった限りは、個人情報の保護はもとより、しっかりとした運用をお願いしたいところです。
<マイナンバーは、国籍に関係なく>
そうなんです。マイナンバーは「日本国民」限定の制度ではありません。日本に住んでいる外国籍の方にも一律に適用されます。けれど、マイナンバーの通知が届いたらどうしたらよいのか、そもそもこの制度の存在自体が、日本語を母語としない方々にどの程度ご理解いただけているか、は怪しいところです。
政府はこれについてはかなり早い段階から手を打っていて、制度の説明文書を26もの言語に翻訳した他言語資料が用意されています。
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/otherlanguages.html
すごいですね。政府の意気込みを感じます。
(他の諸制度についても同じくらいの対応してくれたらよいのですが・・・)
ちなみに、中身はどんなものか。翻訳原文となった日本語版を見てみると・・・
制度の概要、必要な手続きなどの説明が1枚目にあり、2枚目は注意点や問い合わせ先が書かれていました。(「日本語」からのリンク先が【日本語①】と【日本語②】(PDF)にわかれていて、画像は日本語①の1ページ目です。)
【日本語②】の方のPDFファイルには、
イラスト、ルビつきで説明がありました。
あ、今気付きましたが、日本語②の方は「やさしい日本語」版なんですね。
他の言語では、「やさしい〇〇語」がついているものと、ついていないものがあるみたいですが・・・
<多言語資料配布にご協力をお願いします>
先にお伝えしたように、マイナンバー制度は外国籍の方にも、日本語を母語としない海外にルーツを持つ方にも関わりのある制度です。一方、それを知らなければ配達された通知文書がわからず、「関係ない」と捨ててしまうかもしれません。そうなると、捨ててしまった当事者はもとより、自治体の方にとっても、おそらく余計な手間とコストがかかってくることにもなりかねません。
もしあなたの身近に、日本語がわからない/日本語の読み書きができない、という海外にルーツを持つ方がおられたら、ぜひ上記のサイトまたはPDF資料のコピーを配布し、無用な混乱とトラブルを予防しましょう。
自治体職員の皆様や海外にルーツを持つ方々のサポートをされている皆様は特に。
積極的な配布と丁寧な説明に務めていただけたらと思います。(該当する言語の資料を渡して、やさしい日本語で説明を加える、という方法でもある程度大丈夫です)
外国人と日本語で話せる!-広がっています「やさしい日本語」
<「やさしい日本語」という言葉を聞いたことはありますか?>
「だいじょうぶ?どうしたの?」など「優しい」言葉をかけること、ではありません。この”やさしい”は「平易(簡単)な」という方の易しいで、日本語があまり上手ではない方々でも災害時などに必要な情報が得られるよう、阪神淡路大震災時の経験を元に考え出されたものです。
東日本大震災の際には、「避難」や「高台」と言った日常ではあまり使われない日本語が防災無線から流れてきたけれど、外国人の方には理解が難しく、避難が遅れ亡くなられた方もおられたそうです。
このような経験から、この「やさしい日本語」という考え方が防災を中心に、急速に広がり始め、今では行政を中心に日本語を母語としない外国人の方々に情報を伝える手段として積極的に採用され始めています。
海外にルーツを持つ子どもたちを支援しているというと、よく
「じゃあ職員はみんな外国語がペラペラなんだ」
と言われますが、そんなことはありません。中には海外にルーツを持つスタッフや外国に住んでいた経験のあるスタッフもいますが、日本語しかできないというスタッフも活躍しています。また、現場の中では基本的によほどでない限りは外国語ができる職員も、生徒や外国人保護者とのコミュニケーションにはこのやさしい日本語を使用しています。
例えば・・・
「明日は午前授業になるので、給食と午後の授業はありません。午前中で帰宅になるので保護者に忘れずに伝えるように」
となる会話は
「明日、8時45分から12時20分まで勉強します」
「1時15分から勉強しません。家に帰ります」
「給食はありません」
「お父さん と お母さん に 言ってください」
と、
★日本語初級の外国人とは「~ます」を会話の基本に
★簡単な単語を選んで話す
★時間や日付けは、具体的な数字で伝える
などの工夫でぐっと伝わりやすくなります。
これまで、6年間、海外にルーツを持つ子どもやその保護者をサポートしてきた経験からも、意外とやさしい日本語で日常的なやりとりは十分なんだな、と実感しています。
(写真:現場でのコミュニケーションの基本はやさしい日本語)
<なぜ「やさしい日本語」が必要なのか?>
昨日、東京都清瀬市で活動する清瀬国際交流協会が主催されたやさしい日本語の講座にお邪魔してきました。そこで、講師を務めておられたNPO法人多文化共生リソースセンター東海代表理事の土井佳彦さんが、各国の言語学習制度を一覧にした表(下図)を配布されていました。
(出典:自治体国際化フォーラム - CLAIR(クレア)一般財団法人自治体国際化協会 )
ご覧になってすぐにお気づきかと思いますが、日本には公的に日本語を学習する制度はなく、民間や企業、ボランティアが日本語を母語としない方々への言語教育を担う主体となっています。一方、ドイツやフランス、カナダなど、移民を積極的に受け入れている国では言語学習の責任は国家が担っていて、数百時間の教育をほぼ無料で受けることができます。
「日本にいる外国人は移民じゃないから、国が面倒見る責任はない」
と考える方もおられるかもしれませんが、現在、日本に生活している外国人のうち50%以上が永住、定住が可能な資格を持っていますし、ここに日本人と国際結婚した方やその家族を加えると、60%をゆうに超える方々がこれまでも、これからも、日本でずーっと暮らしていく日本社会の仲間、なのです。
その仲間である外国人の方々に、今は公的に日本語教育は保障されていない。
自治体や地域住民が取り組むかどうかで、日本語ができない方々の「暮らしやすさ」や災害時の安全確保に格差が出ている現状です。
一方、私たち日本人側も、最近はオリンピックの関係か英語学習があちこちで推進されてはいるものの、多くの日本人の方々が急に外国語を話せるようになる、ということは実際には難しいのではないかと思っています。
そんなジレンマに一筋の光を射したのが「やさしい日本語」です。
これなら、
「日本語の会話が少しできます(難しい言葉は知らないヨ)」という外国人の方と、
「英語!?No! No!」という日本人の方がコミュニケーションできる!
画期的な、そしてコストゼロのアイディアなのです。
<やさしい日本語でOMOTENASHIも!>
これから日本では、海外にルーツを持つ生活者の方が増加することが見込まれています。同時に、日本に観光へ訪れる方々も増えていくでしょう。そんな時、この「やさしい日本語」が、自治体の職員の方々にとっても、サービス業で外国人観光客を受け入れるお店の方々にとっても、言葉の壁を下げると同時に、顧客(日本語を母語としない人)満足度を高めることにもつながるはずです。
「やさしい日本語」について詳しく学びたい方は、弘前大学の人文学部社会言語学研究所のページより、マニュアルがダウンロード可能です。
http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/EJ3mokuji.htm
そしてなんと、外国人の方々が多く住み、様々な支援の先進地域である愛知県では、やさしい日本語のスマホアプリまで作成しているんですね!
*iphone用
*アンドロイド用
やさしい日本語 - Google Play の Android アプリ
ちなみにこのアプリの作成者は、昨日の講座の講師である土井佳彦さんです。まさに『やさしい日本語の伝道師』ですね。
<ひとつだけ、考えておきたいこと>
「やさしい日本語」は、とても便利なツールで、今後行政を中心にますます広まってゆくことが予想されます。一方で、このやさしい日本語を理解するためには、おおむね、1,500個の日本語のことば(語彙)と、300の漢字とが必要で、そのレベルに到達するまで300時間くらいは日本語教育を受ける必要があります。
ボランティアによる活動も各地で行われてはいるものの、先にご紹介したとおり、日本在住外国人の6割以上が定住・永住が可能であることを考えれば、フランスやカナダなどの事例に倣い、最低限、「やさしい日本語が理解できるまでの日本語教育」は、日本の政府が責任を持って行っていくべきではないでしょうか。